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三善晃の作品について

なにわコラリアーズ オール三善コンサートパンフレットより

■三つの時刻(詩:丸山薫)
1963年初演(早稲田大学グリークラブ)。
三善晃最初の男声合唱曲。三善晃は、高校時代から丸山薫の詩の「孤高を堅く閉じ込める潔さのなかに密かに燻じられている高貴な贅沢さ」に魅かれたと語っている。音楽の造形もその後の合唱作品の書法の萌芽を感じ、ピアニズムは「五つの童画」を予感させている。

■クレーの絵本 第2集(詩:谷川俊太郎)
1979年初演(関西大学グリークラブ)。
「王孫不帰」を挟み、三善晃3作目の男声合唱曲。画家の絵が言葉を紡ぎ、詩人の言葉が音楽を促し、作曲家の音楽が色彩を生み出しているとも言える。三善晃は、「地表の背律や不合理、生の哀しみや痛みが、作品の遠近法を彩色する」と述べている。三者の混淆から生じたその色彩は、生の光と希望でもあると感じさせる。

■縄文土偶(詩:宗左近)
1985年に初演(法政大学アリオンコール)。
「王子」「ふるさと」の2篇の詩からなるが、先に「ふるさと」が作られてから2篇が完成するまでに4年の歳月を隔てている。「ふるさと」から見おろせる「王子」の姿、…その相互の関係が父性や自然を巡る拒絶と尊敬として合わせ鏡のように拮抗した精神世界を築いている。情感の迸りとも言える縄文土偶の造形が示すまま、音楽は過剰なエネルギーとその火照りに満ちている。

■5つのルフラン
1977年初演(法政大学アリオンコール)。
《ルフラン》とは「繰り返し」を意味するが、三善晃はこの作品を「名歌とのたわむれ」と表現している。繰り返し歌われる愛唱歌のパラフレーズと再構築の中に「差異」や「ずれ」のようなものが生じることにより、逆に「愛唱されること」の潜伏的体系を顕在化させている。創団当初の我々が、新しいサウンドの研究をした際に教材的に取り組んだ「思い出深い作品」が並ぶ。

■遊星ひとつ(詩:木島始)
1993年初演(男声合唱団「甍」)。
私たちは「自分とは何か」と問い掛けたとき、タイトル通り宇宙空間を漂う遊星の孤独こそが人生であると実感する。しかし、同時に「友だちおるかい…」という言葉がこの曲全編に響き渡るイニシアル・コールとなって、我々の背中を押してくれている。限りなく広がる宇宙の中で、過去から未来へと繋ぐ命の循環と「生への賛歌」とも言える。

■三つの抒情(詩:立原道造、中原中也)
1962年初演(日本女子大学合唱団)。
三善晃の最初期の作品であるとともに、「女声合唱屈指の名曲」として親しまれてきている。1972年に福永陽一郎により男声合唱に編曲(同志社グリークラブ)されている。敢えて、他者による男声編曲作品に取り組むことは、我々にとって潜伏した三善晃の音楽風景を二人のナイーブな詩人の心情という《男性性》の水脈の中に再発掘する魅力的な冒険の旅ともなった。

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