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「Veljo Tormis男声合唱作品集」

なにわコラリアーズ・同志社グリークラブ演奏会より

合唱王国エストニアの誇る最も著名な作曲家の一人Veljo Tormisは 1930年に生まれた。農家の長男であったが、父母ともに教会音楽や合 唱と深い関わりを持っており、エストニアの豊かな合唱文化は幼いト ルミスにたっぷりと影響を与えたと思われる。
12歳の時オルガン勉強のために首都のタリン(Tallin)に出る。戦 後1951-1954にモスクワで作曲を勉強。50年代後半のOrff音楽への感 銘、62年のハンガリー滞在とKodalyの合唱研究を経て、作曲家として の基礎を固める。1967年のEstonian Calendar Songでは民族的旋律を オリジナルの形のままで合唱曲の材料として利用しているが、この作 品が大きな転機となり、以後のTormisの作風を決定的なものにしてい ったと言える。

○Varjele,Jumala,Soasta(神よ、戦いから我々を守りたまえ)
「カレワラ」はフィン民族の心の支えとも言うべき叙事詩として有名 であるが、フィンランドと民族的ルーツを共にするエストニアの人々 の中でもその存在は重要であり、トルミスの作品にもカレワラの影響 は色濃く見受けられる。この曲はカレワラと同時期に編纂された抒情 詩集「カンテレタル」から取られた詩に作曲された。「カレワラ」の 詩(メロディー)が歌い継がれてきたのと同じく5拍子でかかれ、単 純な繰り返しの中に抑圧の歴史に耐えた「バルトの人々」の民族とし ての叫びが込められている。

○Tsase maa Laul(平地の歌)
トルミスの作品群は大きく二つ系列に分けることが出来る。一つはEst -Finnの民謡をオリジナルとした作品であり、もう一つはバルトの苦難 の歴史を象徴するかのような抵抗の歌、政治的なメッセージの色濃い歌 である。Paul-Erik Rummoの詩によるこの曲には大国の干渉や占領に翻弄 されてきた民族固有の生活を取り戻す願いが託されている。

○Kokko lenti Koillisesta(北東から鷲が舞った)
フィンランドの東部、カレリア地方に伝わる婚礼の歌である。一つの旋 律の最後から次の旋律を紡ぎ出す伝統的なカレワラの歌い方を用いてお り、シンプルながら2つのメロディーを交錯させるように作曲されてい る。

○Helletused(幼い日の想い出)
そう遠くはない昔、エストニアでは子どもたちが牧童として羊の番をし ていたが、彼らはHelletusと呼ばれる歌詞のない旋律を使って牧草地の 中で互いに連絡を取り合っていた。そして各々が場面や状況に応じてい くつもの独自の旋律を持っていたとされる。それらをモチーフとしなが ら、過去(失われた幼き日)の牧童の様子を情緒的に再現したトルミス 渾身の傑作である。曲中唯一の歌詞は、「夢見るように想い出す、あの 幼い日の頃」。曲はトルミス自自身の妹の思い出に捧げられている。

○Muiste mere Laulud(古代の海)
エストニアはフィンランドと海を隔てた大陸の沿岸部に位置しているが、 エストニア人にとって古代から「海」は「豊饒」や「安らぎ」の象徴と して、また同時に「畏怖」や「荒々しさ」の象徴として人々の生活に密 接に関わってきた。この作品は様々な海の表情を歌った詩をモチーフと してシンプルな音構造を組み合わせ、あたかも一つの「叙事詩」であるか のようなストーリー性と音のうねりを持った曲として仕上げられている。 トルミスの代表作としても知られている男声合唱の傑作であると言える。

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