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岬の墓

なにわコラリアーズ2016パンフレットより

紺碧の空、青い海、舞い降りた白い船、白い墓、暗い影、岩の間に咲く赤い花…。
「岬の墓」は1963年、堀田善衛の象徴詩に團伊玖磨が作曲した日本合唱界の 至宝とも言うべき混声合唱の名曲の一つである。男声合唱への編曲は1975年に 福永陽一郎によってなされているが、福永と早稲田大学グリークラブとの十八番 であっただけでなく、その力強さから男声合唱屈指のレパートリーとして、多くの 男声合唱団に歌われている。時代を経ても全く古びないこの曲の魅力は、鮮やか な配色の中に(現在・過去・未来の)時空のパースペクティブを描き出したスケール の大きさ、象徴的かつ普遍的なテキストに対してシンプルで骨太なモチーフの展開 が見られる点であろう。しばしばブラームスの合唱曲にも例えられる大曲でもある。 作品へのアプローチには数学を解くような緻密さが要求され、甘い感傷の余地は ない。また、うっかり曲の波に飲み込まれそうになることも避けなければならない。 しかしながら、最終的にそこに漲る力は、歴史や過去に見守られ、真実の追求を 託されながら「未来へ旅立とうとするエネルギーの尊さ」そのものではないだろ うか。
赤い花は迸る人間の血の色(生命の色)でもあるのだ。

            
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