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「思い出すために」

淀川混声合唱団代第17回演奏会より

…寺山修司が好きだと言うことの理由の一つは名前のひと文字が一緒だからということである。 幼い頃、なぜか私の実家に来た話を聞かされていたからということもある。しかし、いや、もちろ んそれ以上に、そこに少年のような純真を感じるからでもある。それは見え透いたきれいごとでは なく、逆に言語や実験という名の虚偽による過剰防備のあいまに見え隠れする距離感のある美しさ のことである。そう言えば私にも暗闇が怖くて少しだけ襖を空けてもらわなければ眠れなかった幼 い頃があった…。その照れ、ナイーブさ、意地悪さ、いたずら心、懐かしさ、…不安と焦燥に駆ら れながら背伸びして世界を見ようとした時期の反発、自己愛や自棄、未熟な飛翔、憧れと後悔、そ れを隠したい気持ちと隠しきれない時に生じる恥ずかしさ、…それらのすべてが両義的なバランス を保ちながら純粋な気持ちを覆いかくそうとする。寺山は言葉のすべてについてこう言うかも知れ ない。「全部嘘だよ」と。…しかし、そのあと、ぽつりとこう零すかもしれない。
「本当はその反対」と。

            
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