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「子供コーラスから学ぶコーラス」
3.曲がないと嘆くのではなく、勉強する

選曲やレパートリー選びに頭を悩ますのは児童合唱に限ったことではありません。 なぜならそこには方向性やスタンスというものが見えてくるからです。もちろんやれ ることとやりたいことに対するギャップ、実力を勘案した上でどの程度のハードルを 作るのか、という難ししい問題はありますが、逆に言うとレパートリーを誤らなければ 演奏結果以上にその「取り組みの中から得られるもの」が大きいようにも思うのです。 具体的には、私は、前の2回のコラムで申し上げてきた「耳を育てること」「身体を 感じること」の二つの観点を持ってはどうか…と思っています。例えばコダーイを始め とするハンガリーの曲や教会音楽やヨーロッパのアカペラのレパートリーなどを中心に 勉強されることはとても重要な示唆を得られることでしょう。このような場合、外国語 が大きなハードルになりますが、私は大人が考えているより子どもは簡単にそれを飛び 越えるのではないかと思ってはいます。子どもたちと行った外国の合唱フェスティバル でも言語の苦手な大人がもじもじしていたところ(例えば私)、子どもたちは勝手に外 国の合唱団と一緒に外国語の歌を歌っていたことがありましたが、むしろ、無理をさせ ていないかどうかとか、指導者に狙いと理解があるか、ということが大事でしょう。 また、もう一つの要素として、リズムやリトミックの要素を取り入れられる選曲を見つ けたいですね。母語であり何らかのしぐさや遊びから生まれている「わらべ歌」や、言 葉の律動や表情を的確に捉える「唱歌」等はレパートリーの宝庫であることも忘れたく ないです。他にも身体表現を伴いながら練習することや打楽器や手足拍子を入れながら 取り組める曲は明るい表情を加えてくれますね。
合唱における基本要素のことがよく考えられた日本語の児童合唱曲というのは現実的に はもの凄く多いわけではありませんが、丁寧に探してみて欲しいと思います。アカペラ でなくとも、ピアノの役割や音域(重要)やテキストの中味を見極めながら「感性や表 現力を育てるという方向性の中で」選択することが肝要です。いずれにしても、選曲に は指導者の見識や意志、勉強や努力の度合のようなものも問われ、難しいものです。 しかし、私たちの視座を持った取り組みこそが、作曲家に(決してお子様ランチ的なも のではなく)優れた児童合唱曲やアレンジを作らせる土壌になるようにも思います。

2017年『ハーモニー 春号』より
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