まだみぬあなたへのうた

おとな



大人とは決して涙を流さない人だと思っていた
痛くても嬉しくても
怒られても悲しくても
親が死んでもぐっと涙を堪えなければならないのが大人だと思っていた


大人とは常に珈琲を飲む人だと思っていた
喫茶店に行ってもアイスは食べない
カキ氷も食べない
食べるとしてもイチゴやメロンではなく宇治金時あたりを食べる人だと思っていた


大人とはタオルを固く絞れる人だと思っていた
風呂上りの洗面所で
濡れたタオルを絞り
ほとんど使ってないタオルのようにすることの出来る人だと思っていた


大人とは好物を前にしても子どもを優先することが出来る人だと思っていた
おいしいものを食べるときも
決して独占してはならず
配ったものに余りが出れば、すかさず子どもに与えることが出来る人だと思っていた


大人には夏休みはないと思っていた
もちろん、それが大人になりたくない最大の理由だった


大人とはタクシーの運転手に話しかけられても普通に対応出来る人だと思っていた
天気の話
道路工事の話
政治家の悪口
決して意見が別れない話題を見つけてすらすらと会話が出来る人だと思っていた


大人とは当たり前のように新聞を一面から読む人だと思っていた
ネクタイを締めながら
パンをかじりながら
ともかくまず世界の中での自分のポジションを確認する人だと思っていた


大人とは簡単に風邪をひかないひとだと思っていた
しんどくなってもぐっと治し
めったに医者にいくことはなく
少なくともお腹が痛いから学校休むという訳にはいかない人たちだと思っていた


大人とはときにお酒を飲みすぎることがある人だと思っていた
ふらふらとしてガラスコップを割ることもあるのに
何がそうさせるのか
そこにはたぶん深い理由があるようにも思えた

10
大人になりたくなかった
これらのことを考えると自分にはとても自信がなかったから

11
大人になってみてわかったことがある
大人はこどもよりずっとずっとさびしいんだ
寂しさを紛らわすために
大人は大人のふりをしているだけなんだ、と



2009.9.22
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