アポロンの竪琴

野薔薇を歌う


シューベルトを歌う
メンデルスゾーンを歌う
音楽室の茨のそばで
春の香りの立ち込めるガラス窓のそばで

野薔薇はすでに野にはない
蕾は固く結んだ唇のように
歌とともに緩み始め
花びらが至るところで散っている

少年のシャツ
テーブルクロスの刺繍
血を拭ったハンカチーフまで
部屋は薔薇に満たされ
歌はその薫りに咽ている

葉は光に照り映える
針は時計の中で時を刻む
心臓の鼓動のように

野薔薇を歌った少年は何処へ?
手折った少年の傷はいかに?
野薔薇は枯れ果てたのか
夢に散ったのか

ゲーテを歌う
フリッツ・ブンダーリヒを歌う

野薔薇は誰のものでもなく解体され
芸術の強度を生きることもなく
日常の彩りに陥ることもなく
歌という一つの永遠の境地に漂う

野薔薇を歌う
繰り返し野薔薇を歌う
朝焼けの霞の中で
カーテンの翻りに隠れながら
歌という終わりのないため息を呼吸するために

野薔薇を歌う
繰り返し


2010.12.13
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