やさしさとさびしさの天使

天使


1)
いつも、幸せと不幸せの間に天使は立つ
さびしさとやさしさの間を行き来しながら
ときどき立ち止まっては、ただ穏やかに人を見つめている

天使に言葉などない
天使に目的などない
天使は寄り添うだけだ

自分が幸せだと思っている人に
自分が不幸せだと思っている人に
不安な気持ちに
深い悲しみに
嬉しい頬に
明るい眉に

天使のまなざしはただ穏やかに、身体に寄り添うのだ
いつも一番そばで
体温のようなものを感じながら
それが天使のたったひとつの役割だから

2)
幸せと不幸せは互いに背中合わせにもたれあっている
寂しさと優しさは互いに手を絡めあっている

人はそれを言葉や概念で区切ろうとするが、本当はそれは混ざり合っているのだ
一日のうちで何度でも気持ちが揺れ動き
入れ替わり
往復するようにしてさまよう
幸せと不幸せとはちょうどよじれた帯の表裏のように繰り返し入れ替わるのだ

天使はいつも朗らかさと陰りの間に潜み
往来する人を見つめる
天使は飛翔と忍び足を交えながら微笑むように眼差しを送っているのだ

天使の羽ばたき
天使のまなざし

天使に善悪などない
天使に知恵などない
天使に物語などない
天使はただ触れるだけだ
息遣いだけを推し量るようにして
耳を傾けながら
それが天使の役割の全てなのだから


3)
人は必ず一度は天使にあっている

ふと見上げた視線の彼方
ふと目を落とした道路のへこみ
ふとした時間のすきま

でも人には天使が見えない
だから人は急に誰かに会いたくなるのだ
幸せなときも不幸せなときも
どちらでもないときも
大人でも子どもでも

人は天使とあっているのに誰かとあっていた気がして
急に誰かを探すのだ

きっとそうなのだ

ふとなつかしい匂いがしたり
ふと人恋しくなったり
ふと誰かのことを好きになったりするのは
人が気付かずに天使を見ているときなのだ


2010.12.13
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