やさしさとさびしさの天使

口づけをする天使〜フランソワへ


人は急に誰かを好きになる
それは天使にくちづけされたからだ
ときにそれはちょっとした悪戯なのだが
ときにそれはちょっとした励ましなのだが
ときにそれはちょっとした照れ隠しなのだが

人は何でもない誰かを急に好きになる

近くにいたから
見詰め合ったから
何かの波形が寄り添ったから

人を好きになるとき
そこに理由などなく
天使にくちづけされたからと知ることもなく
本当に好きかどうかなど関係なく
風に葉がそよぐように
人は誰かの気持ちに反応しながら
ときにそれを交換しながら生きていくのだ

推し量りながら
はにかみながら
尻込みしながら
見間違えながら
勘違いしながら
思い込みながら

髪に触れる
手をつなぐ
頬を寄せる
人は人を探している
人は人を求めている

それは天使の罠なのだが
人は素直に罠に陥る

天使は罠をしかけるのが好きだから
世界は罠に満ちている

人はいつも誰かを好きになるのだ
死にたくなるくらい
逃げ出したくなるくらい
何かと決別するほどの強靭さすら持ち出しながら

無数の恋を生きるのだ


2010.12.13
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