やさしさとさびしさの天使

長靴を履いた天使


天使は雨の街を散歩する
翼畳んで
水玉の傘をさし
軒下に隠しておいた長靴履いて
天使は雨の匂いを嗅ぐのが好きだから

不意に立ち込める土の匂い
アスファルトの匂い
鉄道の線路の匂い
湿った木肌の匂い
水に濡れた草の葉の匂い
天使は胸いっぱいに雨の匂いを吸い込んでいる

子どもたちが窓を開けると
天使は雨音を音楽に変える

子供たちが駆け寄ってくると
天使は雨粒をキャンディーに変える

それから
天使は
傘をくるくる回し
水たまりを探す

天使は
長靴を鳴らしながら
カタツムリを眺める

僕ら(私たち)は覚えているだろうか
長靴を履いた天使のことを
雨になると街を歩き
傘を回しながら歌を歌っていた
あの天使のことを
天使と一緒に飛び越えた水たまりのことを
天使からもらったキャンディーを

時計の針が止まった雨の街角
その永遠の一瞬
僕ら(私たち)はいつまでそれを覚えているのだろうか

雨の日に見た天使のことを
あの頃に見た
夢のような風景のことを

そして
天使が再び隠したあの長靴のことを




2015.6
作曲:三好真亜沙  2015
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