やさしさとさびしさの天使

夏休みの天使



夏休みの日差しは強く
私たちは天使の姿など見ることはできない
見えるのは夕方だけだ
日が落ちて、まだ暑さの火照りの残った夏の時間
打ち水をした石畳を掠めて吹いた夏風の揺らめきの影に天使はいる

山間の村に細く流れる清流のきらめき
虫捕り網を持った少年が探すクスノキの太い枝

天使は夏休みの少年のそばにいる



夏休みは永遠に少年たちのものだ
それはまるで終わりのない一本道のように
道は地平のはての何かに繋がっている

蝉の声
滴る汗のしぶき
夕焼けに染まる山
井戸水に浸した西瓜

夏のビーチを覆う倦怠という名の暑さ
ただひたすらに燃焼していく生命の心地よい疲労感

そこには目的などなく
瞳の輝きと
手足の躍動だけが存在する

少年たちの濡れた髪は
午後の眠りの間に天使によって乾かされる
思い思いの夏の香りを添え



少年はかつて天使だったのか
天使がかつて少年だったのか
いや
その両方が私たちの錯覚なのかもしれない
互いの関係は夏休みという永遠の時間だけが知っているに違いない


2010.12.13
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