まだ名前のない木

雨降る木〜レインツリー幻想


雨降る木
ざわざわと
過去と幻想が入り混じる

雨降る木
2台のマリンバが交互に音を奏でる
夢と憂いが蔓のように交差する

そこでは躊躇(ためら)いが瘤となり
樹脂となり
そこでは反復する呻きが
悔恨が
根のように張っている
虹は遥かに遠い
光の中にある薄い粒子のままだ

雨降る木
私たちは震えながら近づく
葉からしたたる露を浴びるために
ざわめく雨の音に紛れ込むため
それで傷ついた心が癒されると信じているから
その木の下で眠りにつけば
どこか遠い世界に潜り込める気がするから

雨降る木
かすかにサスペンディッドシンバルが紛れ込む
ピアノとアルトの歌声がてっぺんから降りてくる

私たちの夢はどこに行ったのか
葉陰には何が聞こえるのか
露のプリズムには何が見えるのか

雨降る木
恐れることではなくて
懐かしむことではなくて
休息すること
目を閉じ
耳を澄まし
雨の音を聴きながら
やすむこと

吐息よりも長く
眠りよりも深く
自身の鼓動を聞くこと

雨降る木
穢れと血痕は洗い流される

雨降る木
絶望の中からのみ見えるもの

雨降る木
雨音の中から聞こえるもの
予言のように

僅かの救いや希望や愛というものが私たちの周りには潜んでいるということ

波に飛び交う魚の鱗
闇に紛れる星のまたたき
傷口に塗り込められた膏薬
閉じていくパラソル
遠ざかるシンバルの音
暮れていく世界の果て

全ては雨降る木の宇宙の中で

深遠を覗く崖の近く
疲れ果てたアスファルトの街の近く
夜になると染み出すその内なる宇宙の雨の中で




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