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 葡萄の樹、みやこ・キッズとの共演を果たし

06−03 2006.12.18

「葡萄の樹」というネーミングの合唱団を作ったとき、合唱の基本でもある宗教曲 (キリスト教音楽)を丁寧に勉強しながら、特別に構えたりコンクールを目指した りするのではなく、生活の隣の身近なところでささやかな演奏会を繰り返していけ れば・・・、少しの工夫で合唱音楽を身近なものに感じてもらえる機会を増やしていけ れば・・・というふうに思っておりました。教会でのクリスマスコンサートからスター トし、8回目の今年はショッピングモール内の音楽ホールを借りて演奏会を行いまし たが、特筆すべきこととして、2月に作ったばかりの子供の合唱団「みやこ・キッズ・ ハーモニー」との共演を果たすことが出来ました。

アンコールで「The first Noel=牧人ひつじを」の1番を大人(葡萄)、2番を子供 (みやこ)に・・・、3番は大人の合唱に子供のデスカントを合わせて演奏してみたの ですが、初めて合わせたリハーサルで涙が出そうなほど感動してしまいました。「き っと僕はこれをやりたかったんだなあ・・・」という純粋な思いの実現とともに、初め て合わせるにも関わらず何だかコンビネーションが抜群で(指揮者が一緒だから当た り前か?)、子供たちが一生懸命に歌っている様子と、大人たちが子供たちのあまり にも無垢な感じにやや照れながらも張り切って歌っている様子が一つの編み物のよう に「織り成されている」と感じたのでした。世代が交わり、良い音楽を演奏しようと いう気持ちのもとに「歌の楽しみが歌い継がれている」ようにも感じた嬉しい瞬間だ ったのです。

そもそも「みやこキッズ」の設立の経緯は、ともかく子供たちにたくさんの歌を歌って もらうことでした。大人の責務として子供たちにたくさんの歌を教え、歌うことを通し て、季節感や、情緒や、生きることや、祈ることや、人の気持ちを理解することや、勇気 を持つことを知ってもらうこと、また歌うことで人が喜んでくれることや、歌で人を励 ますことが出来ることを伝えていかないといけないと思ったからでもあります。「葡萄 の樹」の演奏会への「みやこキッズ」の賛助出演は、違う目的で訪れられた客席について のシェアリングも行い、いろんな方々に大人の歌や子供の歌を聞いていただく機会とな ったと思って喜んでいます。

・・・さて、「葡萄の樹」がこの時期に演奏会をするのには意味があります。
そもそも、クリスマスの期間は、心穏やかに過ごす中で、他人の気持ちに思いを馳せたり、 世界の平和や子供たちの未来の幸福を願ったりする期間であるように思います。私たちは、 ここで音楽が出来る幸福を感じることが出来ても、世界中にある不幸、もしくは世界の多 くの地にある貧困や紛争に対してはあまりにも無力であったりします。しかしながら、音 楽を通して、思いを馳せること、世界中の出来事を想像すること、そして、それらの痛み に寄り添おうと思うこと、その痛みが癒えるように祈ること、願うこと、・・・が出来るは ずです。それが私たちに出来る音楽の持つ一つの大きな役割でしょう。この時期に、音楽 を通して本来は知らない人同士であるかもしれない客席と繋がること、気持ちを通い合わ せること、・・・そのひたむきさが「葡萄」の演奏会の唯一の目的です。
昨年はジョン・レノンのHappy Christmas で終えた「葡萄の樹」の演奏会でしたが、今年 は子供たちと一緒に歌った讃美歌の中で様々なそんな思いを込めながら終えることが出来 ました。皆様方に感謝です。

P.S
そしてまた、今年の第2ステージで演奏した「柿本人麻呂のテキストによるレクイエム」が、 個人的には柿本人麻呂と斉藤茂吉を愛し本業の傍ら多くの短歌(昭和万葉集にも収録)を残 した父親へのメッセージでもあったことをひっそり付しておきましょう。目の前の客席だけ でなく「宇宙に対して」「天に対して」「世界に対して」演奏すること・・・これもまた演奏者 が音楽を通して実践出来ることだというメッセージとして。

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