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 名古屋の新作 

13−2 2013.4.24

私が名古屋で指揮をしている合唱団(「名古屋大学コールグランツェ」「合唱団うぃろう」) は今年も名古屋から合唱文化発信の意気込みとして新作委嘱をしています。

「名古屋大学コールグランツェ」の『うみ・そら、神話』は30分を超えるスケール大きな 作品で、千原英喜先生の想像力が炸裂したような凄い曲です。30分の長さを全く感じさせ ないわくわくするような展開には本物の芸術家・音楽家の耳の済まし方、目の向け方、創作 への志を感じます。芸術は、生活や流行や実際の事象にとらわれず、時空を越えた深い洞察 とやわらかい想像力を喚起する翼です。この曲は時空を超えて人の心の始原を歌い、宇宙の 孤独を歌い、生命の循環を歌い、まがまがしい神話を歌い、やがて森の迷宮に紛れ込みなが らひとみを閉じるような子守唄で終わります。しかし、エピローグと名付けられたアンコー ル曲では、それらのすべてのスケールが、今日や明日や、現実を生きる私たちの胸に戻って くるような温かみのある楽曲となっていました。しかも、この曲そもそもが「第一部」と名 付けられており、この先どのように続いていくのか?が大変楽しみでもあります。

一方、名古屋の一般合唱団「合唱団うぃろう」の『あなたとわたし』は同じく(みなづきみ のり)のテキストによるものですが、全くタイプの異なる曲でした。昨年「チャンスは必ず ある」という元気な曲を作ってもらった瑞慶覧尚子先生による4曲の組曲ですが、合唱曲と いうイメージを大きく突き破るようなポップス調の楽しい曲です。キャッチ―な旋律、リズ ム、聞いた後には思わずずっと口ずさんでしまいそうな覚えやすい曲調で、今後は学生や若 い合唱団に人気が出る曲になるのではないでしょうか。多くの合唱団に歌ってほしいです。

委嘱活動とは、費用的な負担もあり、時間的な問題もあり、なかなか簡単に出来るもので はありません。出来れば既製の気に入った曲を演奏していれば負担やリスクのようなもの もかかってこないのですが、初演に関してはやはり記念と言うだけではない格別の意義が あるように私は思います。
無から有を生み出す作曲家の想像力や音楽的技量というのはやはり凄いものだと思います が、譜面を見ただけで感動出来る人が限られているように、譜面は音になることを求めて います。つまりこの世の中に音にするのは演奏をする合唱団であり、新曲をこの世の中に 「生み出すのは」合唱団自身だということも言えるわけです。
また、言葉が作曲家の内面でどのように消化され、葛藤を経て譜面になっていくのか、 …等作曲家の息遣いを通して、記載された一音符一音符へのこだわりや楽譜の読み方を理 解していくことへのまたとない機会にもなると思います。そしてもちろん、広い意味での 合唱文化の発信の担い手にもなるわけです。いずれにしてもその機会をどのように成長に 結びつけるかということかということが委嘱活動の鍵を握っていると思います。思い出や 記念に留めることなく、名古屋の二つの合唱団の取り組みが継続した発展への推進力にな ることを期待しています。

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