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声と音色とコミュニケーション

16−05 2016.7.27

アルティ声楽アンサンブルフェスティバル2016では、昨年に引き続いて 橋本静一先生に講習をしていただきました。
非常に豊富な内容を要約すると、言葉には背景やシチュエーションや人間関 係が深く関わり、表の意味、裏の意味、表面上の言葉では表しきれない意図 や気持ちを伝える機能があるということに気付き、それを演奏表現上に取り 入れましょう…、ということかと思います。
私は、コミュニケーションにおいては実は言語より非言語的要素のウェイトの 方が大きいという研究を思い出したりしていました。
橋本先生の講習では、同じ「ありがとう」でも、小学生が明るく発語する場面 、背の曲がった年寄りが肩叩きのお礼に発する場面、ぶりっこ(死語になって 久しい)が体を硬直させて発する場面、デパートの店員が杓子定規ながら丁寧 に発する場面…、等、身体の状態やシチュエーション、距離感等で、私たちは 声色を変えたり、聞き分けたりしているということの例が示され、先生は、そ れを合唱の演奏に持ち込まないのが不思議でならないという主旨の発言をされ ていました。
つまり、私たちは同じ「あ」の発語や同じ「ありがとう」の言葉の発語でも、 詩やテキストが指し示す状態によって異なるニュアンスを持ち得ることを理解し、 音色(息のスピード、表情、身体の状態)に対する工夫をもっと木目細かにす ることによって、言葉が内容を伴って伝わるのだということを意識しなければ ならないと思うのです。
決して、子音の強さだけで言葉を聞かせようとするのではなく、言葉の意味と 中身やどのような気持ちで発語する場面かを研究することによって、ようやく 言葉は本質的に伝わる可能性を秘めるのだと思います。

アルティ声楽アンサンブルフェスティバルでは、まさしくこのワークショップ に対するアンサーとも言うべき演奏がCCY(コレギウム・カントールム・ヨコハ マ)により展開されました。
ありがたいことに、全て「みなづきみのり+松下耕」のコンビネーションでの 曲を演奏していただきました。
パンフレットの都合で歌詞カードを作れなかったのですが、それが大変に素晴 らしい演奏で、全ての言葉が一語たりとも漏れることなく、明瞭に聞き取れた のです。これは、驚くべきクオリティです。
決してサウンド作りに終止しておらず(サウンドはもちろんきれいなのですが)、 言葉の内容を完全に理解し、自分のものにした上での表現でしたので、感じ取 れるリアリティが全然違うのです。作詩者としては、「こんなに嬉しいことは ない」という感激の演奏でしたし、指揮者としては「あれを目指さないと」と 改めて心に銘じた演奏でした。

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