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 合唱のイントロダクション

17−02 2017.3.30

ブレーン株式会社の原さんと、この「企画」についての最初の話し合いを持ったのは恐らく もう3年近くも前のことです。原さんそのものは野球部出身の方ですが、だからこそ私の 考え方の普遍的に通じる部分(チームビルディングやコミュニケーション、リレーション 構築という側面)とか、言葉をフラットに解釈出来る感覚もお持ちなのだと思います。

私は合唱の練習というものに関して一定のパターンを持っているように思います。かつて (ハーモニー練習すらしたことのなかった学生指揮者の頃)(だからどうやってハモらせた ら良いか分からなかった20代の頃)は全くそんなものは持たなかったのですが、イメージ通 りの音が出ることもなく苦労を積み重ね、研究を重ねるうちに、合唱団を育てるために一つ の型に嵌めることをしだしており、そのことに原さんが気づいたということなのかもしれま せん。つまり、私は、音楽を作るに当たって「人間性」や「エモーショナルなもの」というの は最終的にはどうしても出てしまうので、極力そういう要素に頼らない練習のスタイルとい うものを大事にしてみる必要があるのではないか、と思ったのです。よく中学や高校のカリス マ的な指導者が他の学校に異動すると、みるまに合唱部が途絶えてしまうという現象があり ます。それはもちろん理解出来ますし、特に中高生の指導には先生のパーソナリティのよう なものが大事になってくるでしょう。しかしながら、そのようなことに頼っただけでは、突 如現れる天才の出現を待つようなもので、学校教育の中では音楽や合唱は広がりを生まない ということになってしまいます。そうではなくて、誰もが取り組めるレシピというのか、一定 のレベルまではそのパターンでもっていけるような練習の仕方というものを提案していたの だと思います。

私のいくつかの講習会や練習をご覧になられ、話を重ねてきました。合唱の裾野を広げて行 くためには、コンクール等に向けて患部をすぐ手当てするような練習をしたり、解釈や人間 性のようなもので自分にしか不可能な魔法をかけて去って行くより(そのことを否定するわ けでは全くありません)、出汁の取り方とか、野菜の切りそろえ方とか、基本を大事にして、 どんな練習(料理)にも応用して使ってもらうような講習のほうが大事だと思う、というよう な話をしながら検討を重ねて、この本が出ました。これは10曲の曲集ですが、完成に向け て努力するというよりは、繰り返して練習していく中で基礎的な力を身につけてもらうことを 意図しています。つまり、「エチュード」のような曲集とも言えるでしょう。

ぜひ合唱団の基礎トレーニングとして、音楽の授業の中でも、吹奏楽部でのトレーニングの一環としてでも、取り組んでもらえればと思います。どんな方にも合唱の魅力を感じられるように出来ています。何しろ素晴らしい5人の若手作曲家による丁寧に練られた曲集なのです。

<合唱のイントロダクション〜まえがきより>
 合唱の素晴らしさは身体ひとつで「誰でも気軽に参加できること」でもあります。しかしな がら「指導法」ということについては、音楽的な要素や明確な技術習得だけでは語れない側面 もあり、なかなか確立してこなかったジャンルだと言えるかもしれません。
 この本では、決して演奏会やコンクールでの成果だけを目的とするのではなく、クラス合唱 や音楽の授業での取り組みをも意識して「合唱とは何か」「どういう視座を持って指導してい くべきか」「どのようなプロセスを作ることができるのか」という点にウェイトを置いた編纂 を考えてみました。
 5 名の新進気鋭の作曲家には、生徒や歌い手がどのような順番で合唱的なスキルを獲得して いくのか、他者の存在や自身の役割、仲間との関係を理解していくのか、ということをイメー ジしてもらいながら(言わば指導者目線での)作曲をお願いしたところ、それぞれに素晴らしい 芸術性や個性を持ちながらもエチュードとしての仕組みを備えた曲を作ってくださいました。 また、私自身そこに至る「ウォーミングアップ」とも言うべき基礎練習の考え方やアイデアを いくつか紹介しております。
 いきなり本格的な合唱曲のパート練習を始めるというようなことになる前に、丁寧なイント ロダクションで音楽の仕組みや考え方を伝えることによって、生徒自らが分析し考え工夫する 活動への意識の萌芽を期待したいと思っています。
 ぜひ、楽しみながらチャレンジしてみてください。


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