まだ名前のない木

まだ名前のない木
日差しにはにかみ
慣れない仕草で木陰を作る

根は水を吸い上げ
光は葉脈を走り
枝は鳥に呼びかける

どこかで
正午の鐘がなる
どこからか
風とともに
駆けてくる足音がする

葉はしなやかな髪のよう
木漏れ日は空の瞬(まばた)きのよう

木陰では
いつのまにか恋人たちが眠っている
始まったばかりの季節の音を聞きながら

まだ名前のない木
常套句など知らず
いつもどこか無防備だ

まだ名前のない木
新しい空気の中で
木肌が恥ずかしそうに香っている