やがて来る春に

かつて涙とともに零れ落ち
土の中に眠っていた悲しみの種は
時を越え
いまようやく
かすかな微笑みの芽をのぞかせる

春はまだにがく
春はまだつめたい
私は眠りながらときを待っていたのか
まどろみが断たれ
傷はうずく

しかし、
寝覚めの物憂さの中に突き上げる熱さは
時間というマグマか
芽吹きのエネルギーか
熱い生命(いのち)の源はかつて零した一滴の涙だったのか
悲しみが宿していた生命(いのち)の熱さは
野生の血を巡らせ
凍った涙を溶かし
いま、微笑みの芽をのぞかせている

泥にまみれた春の咽るようなその匂いに
私の身体(からだ)がざわめき震える

私はようやく扉を開ける

土の匂いがした
風が頬を過ぎった

私は何を歌うのだろう
この唇で
私は何に触れるのだろう
この両手で
私は誰と出会うのだろう
この心で

やがて来る春の光の中で
私は問いかける
私自身に
新しい私自身の芽生えに


2010.12.13
作曲:松波千映子 混声合唱組曲「私が私に出会うとき」 2011