僕は六月に死ぬだろう
ある雨の日に
紫陽花はきれいに色づくだろう
蝸牛は何も知らずに這っているだろう
雨は永遠のように降り続けるだろう
静かに音を立てて
ほんの少しの紫陽花色を含みながら
僕はピアノの椅子に腰掛けてじっと雨を眺めているだろう
誰にも気づかれず
誰のことも気にしないで
もちろんピアノには手も触れないで
夜には晴れるだろう
月の光が濡れた庭の樹を照らすだろう
僕は耳を澄ましているだろう
ピアノの椅子に腰掛けたままで
まだ何だか決心が付きかねているように物憂げな視線を庭に向けながら
いろんなことが浮かんでは消え
やがて訪れた最も大切な瞬間に
僕はひと筋の涙を流しているだろう
そして、ちいさくつぶやいてやっと瞳を閉じるだろう
「もう十分だね」という声にゆっくり頷き
ようやく夢を見始めるだろう
翌日にはさわやかな風が吹く
まだ六月なのに
夏休みの朝の匂いがするだろう
僕はその風に乗って天に上らせてもらおう
ふんわり、そしてすーっとスピードにのって
上空から世界を見下ろしてみたかったから
僕は、「やっと僕も空を飛べるようになった・・・」と思うだろう
そう、それは「やっと永久歯が生えてきた」という感覚で
僕は六月に死ぬだろう
それは懐かしいナイーブな季節だから
そして、僕は、僕が僕であったことを確かめながら
六月の空になるのだろう
2009.9.22