1.孤独
どこから来たのか
俺は
何を待つのか
俺は
訊きたかったのはこのことだ
どこへ行くのか
俺は
何を望むのか
俺は
知りたかったのはこのことだ
答えてくれ
この世の目的とは何なのか
名声とは何か
自由とは何か
銀貨を握り締めた青年が
黒い川にそれを捨て去った時の虚無について
命に纏わる呪いについて
自由の代償として与えられる深い孤独の闇について
答えてくれ
生きることの無意味さよ
偽善よ
俺は知っている
俺の血を
俺は分かっている
俺の運命を
孤独を耐えることを
そして
お前はその試練を俺に与えているのだということを
2.愛
夕べの夢を覚えているか?
俺は一人で波を見ていた
海を行く船を追いかけていた
山のてっぺんの木の上から
旅に出る夢だ
小さな世界から逃れ
見たこともない風景を探しに行く夢だ
お前はそんな俺を見ていた
波のように
ものも言わず
俺の孤独を眺めていた
愛というものがあるなら
それは恐らく木々の枝葉から漏れる光のように
揺らめきながら持続するものだろう
隙間から見守るものだろう
愛は気づかぬうちに押し寄せる
言葉なく
まなざしのように
陽のように
波のように
愛が
風に乗って
頬を震わせる
お前の波が押し寄せる
風に乗って
夢のように
3.絶望
俺は孤独に慣れている
絶望は勇気を持って生きることの特権
俺は挫折に慣れている
失意は夢を持って生きるものの特権
油断や緩みが何だというのか
よくあることさ
生きる者の性として
胸の奥のマグマに耐えきれず
逃れ去ってしまったのさ
吊り橋はいつもぐらついている
ふざけた俺はうっかり踏み外し谷底へ
仕方がないさ
なぜならそれが
俺に与えられた運命であり
俺が受ける罰なのだから
暗き渓谷 死の淵
血だらけになりながら突き落とされた俺よ
愛が孤独を救うのではなく
愛には麻薬のような罠がある
俺は分かっていたはずだった
だから 俺は望んでいたはずだった
血だらけになって目覚めることを
木よ 風よ
大いなる宇宙の意志よ
俺は負けはしない
俺は絶望という強度を生きる
「風よ吹け コダマよ響け 自ら考えよ
自由とは何か 自分とは何か
自分と他者を分けるものについて
想像せよ」
4.ヴォカリーズ
風よ吹け
コダマよ響け
澄み渡れ
孤独がお前の魂を磨く
絶望がお前の心を鍛える
しかし自ら考えよ
お前は何故存在しているのか
お前が他者に何を出来るのか
お前に差し伸べられた手を見よ
風が吹くと木の実が落ちる
木の実が落ちると命が宿る
雨が降ると山が育つ
全ては繋がりながら廻っている
5.昔から星を
俺は昔から星を眺めていた
生まれる前は天文学者だったのかも知れない
空が青い
星が回る
俺たちの敵はほかの群れではない
他者(たにん)ではない
俺たちはこの宇宙とともに生きてきた
大雪のとき
山火事のあと
水不足のとき
群れなす意味と価値が今は俺にも分かっている
風の音を聞くがいい
雨の音を聞くがいい
日差しは等しく降り注ぐ
お前はともに生きている
宇宙とともに
6.失踪
夢を探しに
散歩に出たら
そこにぽっかり穴が空いていたのさ
アスファルトじゃない
土でもない
生まれたての雲が寝息を立てていた
俺は
小さいときを思い出して
そこで休んでみたのさ
シロツメグサ毟りながら
躑躅に絡む草で笛を作りながら
花の蜜吸いながら
そのうちに何を探していたのかすら忘れ
俺は雲に起こされた
何ごともなかったかのように夢から覚めたのさ
おお、お前よ
お前に言っておこう
人生がそのようなものだと
短すぎず
長すぎず
楽しすぎず
哀しすぎず
ちょうど良いものだと
泣いたこともあったさ
歯を食いしばったこともあったさ
俺は
何かを探していたんだぜ
夢のようなものをさ
今は穏やかな気持ちさ
冬の寒さも
春の疼きも
やがて五月の花が咲く
やがて五月の花が咲く
雨の寒さも
日差しの強さも
やがて秋の実が実る
やがて秋の実が実る
今日も風に声がこだまする
こだまする
2014.12
作曲:高嶋みどり 2015