なぜだったか、滝廉太郎をもの凄く尊敬していた小学生時代の私でしたが、他方でピアノではなくエレクトーン(多少嫌々)を習っていたために、「シェリーに口づけ」や「トップオブザワールド」のようなポップスを繰り返し弾いていました(どの曲もなかなか合格しなかったのです)。兄はそもそもエレクトーン好きで上達が早く、あらゆる楽譜の全ての曲を自らすいすいと弾いておりました。また同時に歌謡曲全盛時で、兄がラジオ(シンガーソングライターが登場し、ニューミュージックと呼ばれていた頃)を流しっぱなしにしていたので、私はエレクトーンやラジオから聞こえる雑多なポピュラーミュージックを浴びるように聞いていたのでした。
「合唱ポップス」というものが何を示しているのかはともかく、「合唱曲のジャンルの中にバリエーションを」と考えて、松本望先生にお願いし、歌われることを前提とした歌詞を書いてみてました。文学的な内容からほど遠いものばかりですが、案外このような歌って等身大の共感とともに、語呂やワードが印象に残ることも多いものですので、思い切ってダイレクトに理解出来ることを心がけ、あとは作曲家に委ねました。いつもは、スケール大きく、構築的で知的でハードな曲作りを得意とされる松本望さんには、敢えて平易なメロディーを意識して書いて欲しいとお願いしたところ、様々な風合いで曲が誕生し、初演の度に嬉しく聞かせてもらっていたものです。
クラシカルなものよりポップス的なものが取り組みやすいということは決してないでしょう。むしろ集団の中で振る舞いがち合唱人は、シリアスなものには対応出来ても、様々な「感情表現」の振幅が小さくなる可能性はあろうかと思います。このような作品で、大胆で共感に満ちた歌が、ステージと客席の垣根を取り払ってくれることを期待しています。発声にもフレージングにも、そして身体の動きや表情にも柔軟性を持たせながら、様々なジャンルの歌にチャレンジして(楽しんで)もらえたらと思っています。