蛇祭り伝説(初演版)

睡蓮の咲く静かな沼のほとり
千匹の蛙が暮らしていました
雨が降るのを待ちながら
雨が止むのを待ちながら
月や星を眺めながら
陽が昇るのを眺めながら

●月夜の歌(1)

ああ、きれいな月夜だね
水面に灯りがともったよ
木の葉がそよいでいるよ(さやさやそよそよ)
誰かがきっとこの月を見ているんだね

ああ、きれいな月夜だね
細い雲が横切っていくよ
星が瞬きしているよ(ちらちらちかちか)
誰かがきっとこの月に照らされているんだね

さやさやそよそよ
風が吹く
さらさらそろそろ
波が立つ

今夜は静かに眠ろうね
まあるい月夜の光浴び

今夜は明るい夢見よう
まあるい月夜に見守られ

蛙たちは、日照りが続くと雨乞いの神事を行いました
普段は特に秩序もなく、バラバラの生活をしている蛙たちでしたが、この時だけは気持ちを合わせました


※雨乞いの音楽

「ゲロゲロ
ひゅーップ
ヒューッぷ

雲湧き、雲湧き起れ
風吹き、風吹き叫べ
点々点々
雨粒、雨粒落とせ」

~雨の音(フィンガースナップ)~

雨が降ると蛙たちは歌うのでした
やはり雨が好きなので
降り続く雨を見ながら歌い踊ることが蛙たちのささやかな楽しみでもありました

※雨が降ってきた

「Gelo Gelo Gelo Gelo
Gwwa Gwwa Gwwa Gwwa

RRRRRRRR RRRRRRR
RIP RIP RRRR RIP RIP RRRR」

と、まあまあ何とか平和な暮らしが維持されていたわけです。
あの日までは
そう、沼のほとりに化け物が出る日までは

ある梅雨の大雨のあとの晩
恐ろしい出来事が起こりました
化け物が現れたのです

ギラリと光った目に睨まれたまま
一匹の蛙がまったく身動きの出来ない状態でひと飲みにされました

蛙1(東) 「こいつは大ごとだ」
蛙2(東) 「みんなに知らせないと」
蛙3(東) 「困ったことになった、平和だったこの沼に」
蛙4(東) 「日照り以外の問題が発生した」
蛙5(東) 「でかい化け物が現れた」
蛙6(東) 「蛇?」
蛙7(東) 「蛇かもしれんが大きすぎる」
蛙8(東) 「大雨によって近くの湿地に流されてきたのかもしれん」
蛙9(東) 「退治しないと」
蛙10(東)「退治どころか対処のノウハウもないわい。無理もない、この沼が平和すぎて、我々は緊張感なく暮らし過ぎてきた、つまりゆで蛙だったというわけだ」
全員(東) 「ああ、困った困った」

化け物はその後も現れました。
沼の北からやってきて、東側に住む蛙に次々と襲いかかりましたので、西側に住む蛙たちは、ひょっとすると自分たちは関係ないのかも、出来ればそうあってほしいと思っていました。
しかし、ある晩、西側に住む蛙にも犠牲者が出ました。
しかもどうやら別の化け物のようなのです。

蛙11(西)「化け物は一匹じゃないぞ」
蛙12(西)「どこから来るか分からないぞ」

一気に大きな不安と恐怖が沼全体に押し寄せました

●不安の影(2)

誰だ
闇の彼方に光る目は
赤い炎が私を睨む
誰だ
しぶきの中に閉じる目は
青い炎が静かに燃える

それは己を照らす炎
心の鏡が映し出す
私の中の本当の姿
さらけ出された
怒り、不安、憎しみ

それは己に向けた刃
心の井戸が隠している
私の中の本当の気持ち
暴き出された
妬み、裏切り、苛立ち

閉じていた蓋が開かれる
心の奥底の怪しい瞳
私を見張る鋭い目

声を上げるとコダマが返る
駆けだそうとすると扉は重く閉じていく

誰だ
闇の中を光る目が
こちらをにらむ
自分自身でも気づかぬうちに
気づかぬうちに

私は私に追いつめられていく…

沼全体に暗雲が広がっていく中
沼の東側に住んでいた一番の英雄アキレスが立ちあがりました

蛙13「あいつなら、あの化け物を退治してくれるに違いない」
蛙14「俺らにはアキレスがいるんだから」
蛙15「きっと大丈夫だ」

期待を背にアキレスは、満月の晩、化け物の出る沼の北側に向かいました。
化け物は、大蛇でした。今まで見たこともないような大きな蛇です。
アキレスは伝家の剣を抜き、大蛇の口に飛び込みました。
ところが、大蛇は少し血を流しただけで、アキレスをひと飲みにしてしまったのです。

次の晩、今度は沼の西側に住む第二の英雄パリスが戦いを挑みました。
現れた大蛇に得意の弓を引いたのですが、大蛇は軽くかわして、やはりひと飲みにしてしまいました。
パリスもアキレスと同じ運命をたどったのです。

2人の英雄の死に沼は騒然となりました。
この世の終わりのような大変な事態になったのでした。

そこに……

~口笛~

ユリシス
「俺は雨の匂いが好きさ
ちょっと気になる噂を耳にしてこの蛙沼に立ち寄ってみたのさ
おっと、風の匂いに紛れて熟れた山なしの匂いがするぜ。良い酒があるな、なおさら気になるぜ
そう、俺はユリシス。旅から旅の自由人さ」

●俺は風来坊(3)

俺は雨の匂いが好きさ
雨の降る前の
湿った土の匂い
木肌の匂い
そして濡れそぼった葉の匂い
光が澱んでいく
雲が大地と語っている
俺はそこで歌うのさ

俺は雨の音が好きさ
ドラムのようなその音が
ビートの効いたその音が
水たまりを作り
大地にしみこみ
木の根がそれを吸い込む音が
俺はそれを聞きながら眠るのさ

俺は
どこからかやってきて
どこかへと去っていく
口笛吹いて
岩の上に片足で立って見わたせば
世界って案外広いもんだぜ

俺は雨のしぶきが好きさ
天の水が瞳を磨く
その冷たさが五感を刺激する

俺は
どこからかやってきて
どこかへと去っていく
歌を歌って
岩の上に片足で立って見わたせば
世界って案外面白いんだぜ

ユリシスは、まだらの背中をした片足の蛙。片足を巧みにあやつり、沼から沼を渡り歩く変わり者、いわゆる風来坊でした。
誉れ高い英雄たちの相次ぐ死のニュースと、化け物に怯えているこの蛙沼の噂を聞いて、やってきたのです。

ユリシス「俺を雇わんかね、蛇退治には定評のある俺を。年間1000万円で契約せんか、格安だよ」
蛙16 「誰だお前は、片足じゃないか」
ユリシス「戦で片足失ったが、何の不自由もないのさ」
蛙17 「得体のしれない、やくざ者が」
ユリシス「俺様はユリシス、まあまあ有名なんだよ、その筋ではね」

ユリシスは沼の東側にも西側にも顔を出し、大きな態度で売り込みをしましたので、たちまち噂が駆け巡りました。

蛙18(東)「胡散臭い野郎が来た」
蛙19(西)「こっちにも来た」
蛙20(東)「もし本当なら、半分出すか」
蛙21(西)「馬鹿言うんじゃないよ」
蛙22(東)「しかし、このままではパニックも収まらない」
蛙23(西)「あいつ、蛇退治には定評があるって言ってたぜ」
蛙24(東)「こんな混乱期にはあんな輩が現れるのさ、詐欺には簡単に騙されちゃならない」

ユリシスの登場によって、慌てた沼の蛙たちは、緊急対策本部を作りました。沼をあげて対策を立てなければならないということにようやく気づいたのです。

蛙25(西)「東も西も、年寄りも若者も、一緒に戦わないと」
蛙26(東)「ひとまずは、共通の敵なので、一致団結しないと」
全員    「うん」「そうだ」「んだんだ」「そうよそうよ」「ゲロゲロ」

蛙たちの会議ではたくさんの意見が出されました。しかし、それぞれにただの思い付きのようなものでなかなか纏まりません。それどころか、日頃から、何かにつけて悪口を言う井戸端会議はあれど、まともな議論というものをしたことがなかったので、会話もまるでかみ合わないのでした。

●3つの意見(4)

A)
俺はこう思うんだ
大きな敵にはかなわない
降伏というと言葉が悪いが
現状維持
何とかかんとか現状維持
少し後退もやむを得ない
時が解決することもあるさ
用心しながら生きること
慎重になって生きること

ケロケロケロ・・・・・

B)
何を言うんだ
立ち向かえ
まず気持ちで負けてはいけない
立ち向かえ
何があっても
立ち向かえ
人生には戦いが付き物だ
逃げてばかりはいられない
立ち向かっていくときなのだ

ルルルルップ・・・・・

C)
いやいやいやいや
残念ながら
立ち去ろう
逃げる勇気も必要さ
精神論も限界だ
残念だが止むを得ない
立ち去ろう
この沼を出て
新しい住処を探すのが
最も良い手に違いない

クワックワックワ・・・・・・

ケロケロケロケロ・・・・
ルルルルップ・・・・
クワックワックワ・・・・

ユリシス「本当にもう、君らの議論は見てられないねえ」

ユリシスは、寝転んで熟れた山なしの酒を飲みながら、議論の様子を聞いていたのですが、やがて、しびれを切らしたように言いました。

ユリシス「君たち、人身御供というのはどうだ?」
蛙27 「人身御供? そんなこと出来やしない」
ユリシス「多少の犠牲で大半の命が救われるならばやむを得ない。誰かが犠牲になって、大勢を守るのさ」
蛙28 「そんなことできるものか」
蛙29 「だって、どうやって選ぶんだよ」
ユリシス「いや、もちろん、そのように装うという作戦だね」
T全  「装う?」

ユリシスは岩の上に立ちました

ユリシス「俺は歴史や古今の物語を渉猟してきた。そしてこの手のシチュエーションについても、たくさんの事例を研究した。分析するとある種のパターンがあるのさ。そこで、いくつかのアイデアを考えてみた」
A全  「どんなアイデア?」
ユリシス「諸君、答えを急いではならない。下手な議論をいくつ重ねても、何もしていないのと同じなんだ。こんな時にはリーダーが必要なのさ。君らはリーダーもなくかみ合わない「蛙の合唱」しているだけのことさ。そもそも、まず敵が誰で、どんな敵なのか、大蛇なら何匹いるのか、どこに居て何を狙っているのか、誰か正確に答えられるかね?」
全員  (首を振る)
ユリシス「敵を知り、己を知る、そして弱点や強みを抽出して今何が出来るかを考える。情報収集、現状分析、そして相手の弱みと自分たちの強みを生かした作戦を練る、……当たり前のプロセスを踏まないといけないねえ」
S全  「作戦を練る?」
ユリシス「むやみに戦うことが良いとは限らない、しかし、俺たち蛙も自信を持つことは必要だぜ、強い意志を。この蛙沼には蛙沼の強みがあるものさ、そんなことを考えたことがあるかね?己たちの強みは何か?」

ユリシスは歌いました

●蛙の歌(5)

鈍色の雲が真昼の空を覆うと
一匹の蛙が鳴き出した
稲光とともに
数千匹の蛙の声がこだまする
るりるりるりと歌いだす
それが
蛙の宴の始まりだ

エメラルドの背中が斑に光る
泥にまみれながら生きて来た一億年の歳月が
俺たちの命を支える
雷鳴よ鳴り響け
雨中に薫れよ杜若
るりるりるりと雄たけび響け
空の雲との競演だ
るりるりるりるりぎゃわぎゃわぎゃわぎゃわ

紅色の雲が西の空にたなびくと
一匹の蛙が鳴き出した
最後の炎とともに
数千匹の蛙の声がこだまする
げりげりげりと歌いだす
それが
蛙の宴の始まりだ

オリーブの背中が漂い溢れる
泥にまみれながら生きて来た一億年の歳月が
俺たちの物語を支える
夕日よ燃え盛れ
赤く映えよ蓮の花
げりげりげりと叫べよ騒げ
赤い火との競演だ
げりげりげりげりぎゃわぎゃわぎゃわぎゃわ

魚は陸では死ぬ
獣は水で死ぬ
蛙は逞しく生き残るのさ

月に向かって跳ねながら
星に向かって踊りながら
逞しく歌うのさ
数千匹の命の歌を

ユリシスの指示で、まず偵察部隊が編成されました。
大蛇が出る北の湿地を、葉っぱに身を隠したすばしっこい蛙たちが探ってきました。

蛙30 「大蛇は3匹」
蛙31 「長さ大きさはこれくらい」
蛙32 「腹が減ると沼にやってくるんだ」
ユリシス「それ以上はいないよな、ならば勝ち目があるぜ」

緊急対策本部でユリシスは言いました。

ユリシス「よく考えてみよう。普通は強いやつが弱いやつをやっつける。しかし世の中にはその逆になるケースがあるんだよ、どういう場合か分かるかね」
蛙33 「弱い奴が強い奴を倒すってこと?」
ユリシス「そうさ、強いものにも弱点がある」
蛙34 「蛇には手足がないとか」
ユリシス「まあ、そういう具体的なことではなく、まずは一般論として考えてみよう。まず、強い者には奢りという弱点がある」
蛙35 「奢り?」
ユリシス「プライドだよ、そのプライドを利用するんだ。強さから来る奢りやプライド、そこからある種の油断が生まれる。それを突くんだ」
蛙36 「なるほど」
ユリシス「次に、この手の戦いを制する知恵としては、禁忌事項を逆に利用するということだな」
蛙37 「禁忌事項?」
ユリシス「そうだ。ダメと言われていることを我々はどうしてもしたくなる、見るなと言われているものを我々はどうしても見てしまう」
全員  「うんうん」
ユリシス「そして最後に、決め手は酒だ。古今の物語の中でも、成功するのは酒を使った作戦さ。それこそヤマタのオロチも、トロイの木馬作戦も、そうだ」
全員  「酒?」
ユリシス「ああ、これさ」

ユリシスは肩に担いだ瓢箪の徳利を示しました

ユリシス「俺は特別として、君らは蛙だけにゲコで、知らないだろうが、酒というものは、飲むと酔っ払って、気持ちよくなって、しまいにはふらふらになるんだ」

ユリシスは自らの立てた作戦を説明しました。
大蛇に、人身御供を出すと言って油断させたところで酒を差し出し、これは飲んではいけないと言えば、大蛇はきっと酒を飲む、そこで、酔ってふらふらになったところを、みんなで川に落とす、というのです。

全員  「なるほど!」
ユリシス「よし、みんな、まずは酒造りだ!」

●さあ酒造り~必要なことは何だろう(6)

<酒造り>
さあさあ
甘い樹液を集めよう
ブナやコナラの木を昇れ
それから蓮の実集め
潰せ、砕け、こね回せ
煮ろよ、炊き込め、かき混ぜろ
時間が経ったら木陰で冷やせ

さあさあ
熟れた果実を取ってこい
梨の実桃の実取ってこい
それから蓮の実集め
潰せ、砕け、こね回せ
煮ろよ、炊き込め、かき混ぜろ
時間が経ったら土瓶に入れろ

さあ酒造り、酒造り
力を合わせて酒造り

<必要なことは何だろう>
さあ、必要なことは何だろう
準備、計画、状況把握
さあ、必要なことは何だろう
分析、作戦、役割分担

いやいやそれに先駆けて
団結こそが重要さ
全てはそこから始まるものさ
肝心なのはこのことさ

さあ、必要なことは何だろう
言葉、振る舞い、協調性
さあ、必要なことは何だろう
勇気、覚悟、積極性

いやいやそれに先駆けて
落ち着くことが重要さ
全てはそこから始まるのさ
肝心なことはこのことさ

さあ
機は熟したぞ何事も
熟れた果実が落ちる時
それが、決戦の狼煙が上がるとき

ユリシスの指示のもと、老若男女、共同しての作業が続きました
木の蔓や草を使って丈夫な縄を作る。松葉や栗のイガを束ねて強い剣を作る。身のこなしの早い者は先陣として鍛える。力自慢の者は特別攻撃隊をつくる。大蛇の口を縄で縛る訓練、石をぶつける訓練、栗のイガを被って体当たりする訓練。大蛇を川に突き落とすためのルートも確認しました。

蛙38 「しかし川に落とすだけで大丈夫ですかねえ」
ユリシス「雨を降らすのさ、大雨を。するとあの川は思いっきり急流になるだろう」
蛙39 「なるほど、そのまま一気に海まで行ってしまうという訳か」
ユリシス「そう、君たちの得意な雨乞いだよ」

全ての作戦は、雨乞いをして雨を降らせた後に決行することに決めました。


蛙40 「でも、ユリシスはどうしてそんなに蛇退治に執念を燃やしてるんだね」
ユリシス「趣味だよ、趣味。俺も少しずつ知恵がついてきたという訳さ。
しかしながら、夜は月でも眺めて、一人酒」

ユリシスは夜になると、一人、岩の片隅で月を眺めながらお酒を飲んでいました

10

ある程度の準備が出来たところで、ユリシスは蛙沼のリーダーとして、化け物との交渉役をかって出ました。

ユリシス「リーダーはまず自分から見本にならねばな。勇気を示し、求心力を得ることが必要さ」

ユリシスは、そう言うと、一人で、大蛇の住居に近づいていきました。そして大きな岩のてっぺんに片足で立つと、大声で叫びました。

ユリシス 「頼もう」
大蛇(N)「なんじゃ、蛙か」
ユリシス 「誉れ高き大蛇の方々に相談がありまする、決して私をひと飲みにせずお聞きください」
大蛇(N)「なんじゃ」
ユリシス 「この蛙沼から次々に蛙をさらわれますと、私どもは毎日不安におびえる日々が続きます。そこで提案です。あなた方は三匹おられると聞き及んでおりますが、月三十匹、生贄をさしあげるというのは如何でしょう」
大蛇(N)「ふむ。我々も狩りをしに出掛けていく手間が省けるというわけか」
ユリシス 「そうでございます、毎月満月になりました夜に、生贄を差し出すことにいたします。ただ、我々の神事といたしますゆえ、酒とともに祭らせていただきます、その酒には、決して手を出されませぬよう」
大蛇(N)「酒?」
ユリシス 「天の神に供えますものゆえ、いかに大蛇様といえど、決して手を出されませぬよう」
大蛇(N)「大丈夫じゃ。わしらは、手がない。ははは。よかろう。では、満月の夜に」

11

細い月が三日月になり、半月になり、ふっくらした枇杷の形になってきました。
さあ、いよいよ明日は満月の夜。
千匹の蛙たちは一丸となって雨乞いをしました。

※雨乞いの音楽

ゲロゲロ
rrrrrrrr
ひゅーップ
ヒューッぷ

雲湧き、雲湧き起れ
風吹き、風吹き叫べ
点々点々
雨粒、雨粒落とせ

~雨の音(フィンガースナップ)~

●雨は賑やかに(7)

点々点々
雨が、雨が降り出すと
点が輪になる
輪が広がっていく
幾重にも重なりながら
池には波紋が広がっていくよ
紫陽花の花が咲くように

みずすましがスケートリンクで滑る
小鮒が跳ねる
恵みの雨が降ってきた
野花も草も雨の中
雨よ流れよ川になれ

点々点々
雨が、雨が降り出すと
点が輪になる
輪が広がっていく
楽しいリズムを刻みながら
池には音が溢れていくよ
オーケストラの演奏のように

睡蓮の花がバレエを躍る
ザリガニたちが騒ぎ出す
恵みの雨が降ってきた
森の緑も雨の中
雨よ流れよ川になれ

12

雨は一日中激しく降り続きました
そして、その雨もやがて小降りになり、あがり始めた頃、ちょうど満月の夜となりました。
千匹の蛙たちはそれぞれの持ち場に分かれて待機しました。

ユリシス「大丈夫さ、心配するな、この決戦が蛙沼を強くする、この決戦が蛙たちを賢くする。試練を乗り越えることも時には大切だ。今がその時なのだ。落ち着いて実行しよう。」

少し滲んだ満月の明かりに照らされながら、酒の壺を載せた蓮の台座、その担ぎ手とそれを先導するユリシスが出発しました。
草木には雨のしずくが光っています。
ユリシスは振り返ると、待機する蛙の大群に拳を上げてみせました。
いよいよ決戦の時です。

ユリシス 「頼もう、大蛇どの」
大蛇(N)「おお、来たな、片足の蛙。来なかったら明日ひと飲みしに行くつもりだった」
ユリシス 「蛙は嘘をつきませぬ、お約束通り生贄を三十匹用意しております。生贄はいま禊の儀式を行っておりまして、夜明け前には必ず参ります。まずは酒を運んできましたが、これは我々の神事ゆえ、決して飲まないでいただきたい。どうぞよろしくお願いいたしまする」
そう言ってうやうやしく酒の壺を置きました。そして、担ぎ手の蛙たちと共に丁寧にお辞儀をすると、引き返すふりをして、茂みから様子をうかがいました。

もちろん、約束を守るつもりのない大蛇たちです、酒の壺から立ち上ってくる甘い香りに吸い寄せられていきました。
大蛇(N)「なるほど、酒か、存外に良い匂いじゃわい」
大蛇(N)「わしらに蛙の神事は関係のない話」
大蛇(N)「食事前の食前酒といこう」
そう言いながら、長い舌で酒を舐め始めました。それがなかなか良い具合でしたので、そのままなめ続け、しばらくすると、一匹、また一匹と眠り始めたのです。

その様子を見ていたユリシスは、大岩に片足で立ち、大声で叫びました。
「さあ、今だ」

●一千匹の蛙たち(8)

さあ、いまだ
踊れ、戦え
勇気奮って
一千匹の蛙たち
自慢の足で飛び跳ねよ
磨きあげた剣を抜け

例え力は弱くとも、組み合わせれば強くなる
仲間がいれば
大きな力が湧いてくる

さあ、その時だ
立ち上がれ
拳にぎって
一千匹の蛙たち
腹の底から雄たけび上げよ
怒りの声で威嚇せよ

たとえ声は細くとも、組み合わせれば力になる
仲間がいれば
知恵も元気も漲ってくる

さあ
決戦の時は来た
秘めた力を見せつけろ
団結のエネルギー
時代を変えろ
世界を変えろ

クワッククワック
ケロケロケロ
ルルルルルップ ルルルルルップ
ガーッ ガーッ ガーッ
・・・

13

先陣たちが大蛇の口を縄で縛り、第一陣が特製の剣で目を刺します。力自慢の第二陣が、石をぶつけ栗のイガで体当たりをして大蛇を弱らせると、特別攻撃隊が、まだ暴れている大蛇を押さえ込みます。
そこからは総攻撃です。千匹の蛙が飛びかかり、大蛇たちを川へ放り投げました。
三匹の大蛇は、流れが速くなった川に、なす術もなく流されていきました。

完璧な勝利でした。
蛙が蛇を倒したのです。
柔良く剛を制す。
知恵者が力自慢を打ち負かす。
たくさんの力が一つに結集することで大きな難敵を倒すことに成功したのです。

蛙41「勝ったぞ」
SA全「さあ平和がやってくる」
TB全「力を合わせたことの勝利」
全員 「蛙沼万歳」

千匹の蛙たちは雄たけびを上げました。
そして思い思いに歌い、踊り出しました。

ユリシスは少し離れた岩に腰かけると、勝利を祝う蛙たちを眺めながら、一人、酒を飲み始めました。

ユリシス「みんなよくやった。気持ちの良い勝利だ」

●虹がかかる(9)

夜明けの空に虹がかかる
時間をかけた雨上がり
世界がもとに戻っていく

虹がかかる
それは僕らが飛び越えるための
新しい夢
それは僕らに示された
遠い希望

雨が上がると
新しい道が見えてくる
洗い流された心に
新しい光が差してくる
それは僕らが再び歩き出すための合図なのさ

まっさらな空に虹がかかる
静かに訪れた雨上がり
世界が呼吸を始めている

虹がかかる
それは僕らが飛び越えるための
新しい夢
それは僕らに示された
遠い希望

虹がかかる
今日が昨日になり、明日が今日になっていく

雨が上がると
新しい色が見えてくる
洗い流された大地に
無数の若葉が輝いている
それは僕らが再び歌い始めるための合図なのさ

何かを乗り越え、逞しくなった僕らの

過去から未来に向かって
大きな虹が架かっている

14

蛙42「虹だね」
蛙43「蛇が天に昇っていくんだよ」
蛙44「回ってるみたいだね」
蛙45「世界が回ってるんだよ、ぐるぐるぐると、念仏唱えるんだね」
蛙46「念仏」
蛙47「そうだよ、それが蛇祭りさ」

15

沼には再び平和がやってきました

SA全「弱いからこそ努力する」
T全 「弱いからこそ協力する」
B全 「弱みが強み」
全員 「そういうことだな」

※祭り囃子

16

ユリシスは蛙沼を後にしました

ユリシス
「俺は風の匂いが好きさ
雨が上がったあと俺は風とともに去っていく
昔、片足失ったが俺にはそれでちょうどいい
弱みが出来たらからこそ考える
不安だからこそ準備する
まあ、いろいろあるが、人生それなりに楽しいぜ
1000万円持って旅は出来ないからな
酒の残りを徳利に入れて旅の供にさせてもらうぜ
じゃあな」




作曲:   20