静脈 動脈

巡る
地下水のように
私の体の底深く
見えぬ憎悪の淀みを
逆らえぬ官能のぬめりを
巡る
謎の闇の中を
隠された暗号を探しながら
…やがて
樹液が染み出し
雨が滴る
瞼閉じる私
眠る私
死んだ私
血が巡る
空気の底
見えぬ宇宙のように

流れる
せせらぎのように
心の野辺を横切り
虹色のやさしい茂み
美しいカーブのフォルムを
流れる
浅靄の中を
見つけたパステルを手に
…やがて
魚は飛び撥ね
光が差す
目覚める私
起き上がる私
蘇る私
血が通う
海の彼方
見えぬ大陸のように

静脈から動脈へ
白い肌に浮き上がる静脈
それをなぞる指
夜から朝へ
一人の私からもう一人の私へ
昨日から今日へ

静脈から動脈へ
何でも知っている私から何も知らない私へ
手の甲に浮き上がる静脈
そこに吹きかける息

命が動きだす
再び
新しい私になるために





作曲:北川昇