歌は繋いだ手のように

やっと見つけた言葉がある
それは夜明け前に開く睡蓮の花
岩陰に落ちていた虹色の貝殻
歩きつかれたあとの木陰

私は気づかなかった
長い間
私はたくさんの言葉を持っていたことを

言葉は虹の架け橋のように
朝露のように
光に満ちている

やっと思い出した歌がある
それは夕暮れ見つけた一番星
春咲く花の蕾
手まねきするあなたの微笑み

私は分からなかった
長い間
私がたくさんの歌を知っていたことを

夜が明ける
陽が昇る
露のプリズムが煌めく
孤独などなにもなかったかのように
鳥が飛び立つ

雨があがる
風が吹く
憂いなど何もなかったかのように
虹がかかる

争いなどなかったかのように
人は人と手を取り合う

探していたものは何だったのか
それが分からないまま
人は耳をすます

コーラスが聞こえる
あの虹の向こうから


私たちは生きている
繰り返されるこの日々を
いくつもの挫折を繰り返し
たくさんの傷を抱えたままで
たくさんの思いを呻きのように抱えたまま

必ず陽が昇り
必ず虹がかかるこの世界の上で

言葉は誰かと誰かを結ぶ絆のように
歌は繋いだ手のように
あなたから私へ

目を合わす
手を取る
息を吸う
共に歌う
一連の所作は
生きていることそのものだ
さあ
歌おう
私たちの歌を


2015.6
作曲:名田綾子  2015