クリスマスツリーになりたかったりんごの木

Story

いつかどこかのクリスマス
リンゴ畑のはずれには、まだ幼いりんごの木が一人で立っていました。
りんごの木は北風にききました。
「ねえ、クリスマスって何?」
「そうねえ、憩いの日、安らぎの日ね、人が私を避けて暖炉のそばに集まって笑顔になる日ね」
りんごの木の想像は膨らみました。
「笑顔になる日か」
りんごの木は通りかかったハリネズミに聞きました。
「ねえ、クリスマスってどんな感じになるの?」
「きれいに飾り付けがされるんだよ、木にね、そして部屋に飾られるんだよ。クリスマスツリーっていうのさ」
りんごの木の思いは広がっていきました。
「クリスマスツリーか」
りんごの木は雪の森からやってきた小りすとキツツキに向かって聞きました。
「ねえ、クリスマスツリーってどんな木なの」
「いっぱい飾りがついた木さ」
「金や銀の飾り物、赤い玉や黄色い玉、白いリボンがたくさん付いて、てっぺんには星があったっけ?」
りんごの木は胸がいっぱいになりました。
「いいなあ、色とりどりの飾りかあ」
「うっとりするくらいきれいだよ」
「良いかどうかは知らないねえ」
りんごの木は、きれいに飾られたクリスマスツリーのことを想像しました。

そして、静かに雪がやみ、北の空にひときわ明るい星が輝いた頃、りんごの木は遠くの森のブナの木に聞きました。
「ねえ、クリスマスツリーって知ってる?」
「ああ、知ってるよ、今頃はあたたかな暖炉の傍でピアノの音を聞いているさ」
「いいなあ、飾りをつけてもらって」
りんごの木は、自分がクリスマスツリーになれたらどんなに良いだろうと考えました。
そして、ブナの木に言いました。
「ねえ、僕はクリスマスツリーになりたいんだ」
ブナの木は、少しあきれたように微笑みました。
「何を言うんだねえ、それはもみの木さんの専売特許、お前にゃ無理だよ」
「僕も絶対にクリスマスツリーになりたいんだけどなあ」
「お前は背が低いだろう」
「低ければ無理なの?」
「そうすると小さな子供が上の星を取るからね、クリスマスツリーのてっぺんは星の形を飾り付けるのさ。だから、いつも、もう少し大きな木が選ばれるのさ。小さな子が取ってしまわないようにね。」
「いいなあ、いつかクリスマスツリーになりたいなあ、そして飾り付けてほしいなあ」

りんごの木は少しがっかりして、空の星を見つめました。
そしてひときわ明るい空の星に言いました。
「僕をクリスマスツリーにしてください、いつか必ず」
星はりんごの木を見下ろすと、やさしく言いました。
「なにを言うの、お前はりんごの木。そのうち真っ赤な実がなるんだよ、しかも毎年ね、どんな飾り付けよりもそれが一番の自慢になるでしょうよ」
「赤い実?クリスマスに?」
「クリスマスより前ですよ。お前のつけた赤い実はクリスマスの食卓で子供たちのパイになるんだよ。素敵じゃないか。」
空の星はそう言うと、ウィンクするようにまたたきました。
「そうか、じゃあいいんだ。クリスマスのテーブルに行けるんだね。それなら、頑張って赤い実たくさん実らせよう」
りんごの木は嬉しそうにほほを赤く染めました。やがてなる果実の色のように。

そして、空の星たちは微笑みながらいっせいにりんごの木を照らしました。
りんご畑の幼いりんごの木のてっぺんを。


Poem

まだ幼いりんごの木
クリスマスの朝に言ったとさ
きれいなクリスマスツリーになりたいと
たくさん飾りをつけたいと
森のこりすは笑ったよ
君では無理だと笑ったよ
君はりんごの木だからね
いつか赤い実結ぶじゃないか

まだ幼いりんごの木
クリスマスの午後に言ったとさ
やっぱりクリスマスツリーになりたいと
暖炉のとなりに行きたいと
森のきつつき笑ったよ
背が高くないと駄目なのさ
君はりんごの木だからね
いつか赤い実結ぶじゃないか

やがて日が過ぎ時が過ぎ
りんごは赤い実みのらせた
実は摘み取られ
おいしいパイになったとさ

もう大人のりんごの木
クリスマスの夜に言ったとさ
クリスマスツリーにはなれないが
豊かに実った赤い実は
クリスマスのテーブルで
子供たちを待ってるよ
空の星は微笑んだ
そしてりんごの木を照らしたよ
木のてっぺんを
まるでクリスマスツリーの星飾りのようにして



2023
作曲: 2023