やがて哀しきピエロの君よ
月の光のステージで
零れ落ちる宇宙の音を
全身に浴びる君
差し出した手にリラの花びら集め
隠した拳で星屑握り締める君
若草の衣装を纏った
春愁のピエロよ
やがて儚きピエロの君よ
細長い身体を屈め
自らの鼓動に耳を傾けながら
笛を吹く君
俯いた肩で人を欺き
見上げた額で空に願う
とんがり帽子の
笛吹きピエロよ
君は何も語らない
君の命の躍動は
折り畳んだその長い指先の骨に
君は何も示さない
君の嘆きと共感は
不器用に頬を擦るその手の甲に
唐突に
君は立ち止り月を見詰めて手を差し上げた
僕らの呻くような魂を
捧げものにするようにして
そしてまた唐突に
君は僕らのもとを離れた
哀しい微笑みを残して
出番は終わったとばかりに
春愁のピエロよ
君は月に照らされて
いつも笛を吹いていた
春愁のピエロよ
その魔法の指先よ
僕らは幾度も夢を見る
君のしぐさに
その音に
永遠(とわ)の時間を感じながら
ああ
ピエロよ
今は遠い空の彼方に佇む君よ
雲のカーテンを開き
ありったけの月明りで僕らを照らせ
ああ
愁いある指先よ
笛を取り
奏でよ
やがて来る夜明けまで
2014.101
作曲:信長貴富 「帆を上げよ、高く」2014