煙突の向こうにいる天使~ヤスジローへ

人は煙突を見る
そこに天使が座っている気がするからだ

電信柱を見る
立ち並ぶビルを見る
夕日の沈む街を見る

視線のはるか彼方
失われる時間と光の間に
天使が佇んでいる気がするからだ

人は庭の垣根を見る
縁側に座って
日の当たる明るい部屋の片隅で

人は遠ざかる人を見送る
人は山の彼方に吸い込まれていく空を見る
雲の行方を見る
線路の向こうや
汽車の行方を見送る
やはり失われようとするもの
遠ざかっていくものを惜しむように見つめる

天使は視線の向こうにいるのだ
天使は遠ざかるものの背中にいるのだ

時間と光の間
瞬きのように翼を動かし飛翔しながら
腰掛け足をばたつかせながら
ハープを奏で

天使は
当たり前の風景の中に顔をのぞかせる
時の行方に腰をかけ
そっと紛れ込む
メヌエットを反復するピアノの音のようにさりげなく


2010.12.13