ありがとうの歌

「空」
見上げるといつもそこに空がある
私の気持ち映した色で
ずっと見てきたと言わんばかりに
ずっと見ていると言わんばかりに
空は広がっている
夢のように
どこまでも
空は広がっている
未来のように
果てしなく

1●空のうた~「ありがとうを贈ります」より抜粋改訂

空よ
私を見守る空よ
あなたはいつも私に
広い心を教えてくれた
ブランコから見上げた五月の空
運動場から見た遠い秋の空
夕焼け空、星空
真っ暗になっても必ずもとの姿を見せてくれる空
自由な青空
やさしい曇り空
どこまで走っても
どんなに泣いても
必ず広がっている空
希望のように
未来のように

「雨」
頬杖をついていた私に
雨が何かを伝えようとする
眠ってしまっていた私を
雨が起こす
雨が私を愛してくれている

「風」
何度も私の前を通り過ぎ
涙乾かしてくれた風
洗いたてのシャツのような
新しい頬を私に与えてくれた風

2●若葉のように

私の胸の奥深く
私の中の何かが疼く

私の瞳の奥深く
私の中の何かが目覚める

私の心の奥深く
私の中の何かが薫る

若葉のように
気恥ずかしさと苦(にが)さを持って
それでも
小さな微笑みつれて
私に五月の風が吹いてくる

「父母」
悲しいときに父を思い
苦しいときに母を思う
何度も何度も
寂しいときに母を思い
悔しいときに父を思う
何度も何度も
繰り返し

「大地」
何度受け止めてくれたことだろう
倒れた私を
何度弾ませてくれたことだろう
スキップする私を
私はいまお前の奏でる子守唄を聞いている

3●大地の子守唄

ふうわりふうわり
花が咲く
ふうわりふうわり
葉が茂る

おやすみ大地の子守唄
あなたがおやすみしてる間(ま)に
大きな夢の花が咲く
静かに やさしい瞳閉じ
眠れ私の腕の中

よおうらよおうら
雪が降る
よおうらよおうら
木の芽が育つ

おやすみ大地の子守唄
あなたがおやすみしている間(ま)に
あの日の思い出巡ります
おやすみ きれいな瞳閉じ
眠れ私の腕の中

いつの間にか時はすぎ
あなたは誰かに歌うでしょう
おやすみ大地の子守唄
歌い継がれる子守唄
いつかあなたの思い出に
この歌静かに残るように

「ふるさと」
列車の窓から見ると
懐かしいという言葉の代わりに山がある
夕日の沈む先
ここが私の故郷だ

列車の窓から見ると
懐かしいという言葉の代わりに海がある
夕日の沈む先
ここが私の故郷だ

「海」
海に嘘をつくことはできない
海に虚勢を張ることも出来ない
海には何もかも話そう
そして、海にはごめんなさいと言おう
もっとも素直な気持ちで

4●海のうた

一人で海を眺めていると
一番素直な私になれる
「ごめんなさい」
と私は呟いている
波の音を聞きながら

遥か昔
遠い昔
私は魚のように波間に漂っていた
いつしか一人で陸に上がってしまったのだ

一人で海を眺めていると
一番きれいな私になれる
「ありがとう」
と私は呟いている
海鳴りの音を聴きながら

遥か昔
遠い昔
私は海の子守唄を聞いていた
私はそれを誰かに歌ってあげられる
今ならきっと

「樹」
天使は背の高い銀杏の木のてっぺんに座り
並木道を歩く人を見ている
天使は背の低いポプラの最初の枝に座って
歌を歌っている
それを見つけられるのは
一人ぼっちの子どもだけ

5●樹のうた

見つけたよ
天使が翼休める樹があるんだよ
でも教えないよ
天使がいること
その樹のことを

見つけたよ
天使が歌っている樹があるんだよ
でも教えないよ
天使がいること
その樹のことを

ほら、
まばたきしてる間に天使は飛んでいく
木漏れ日の微笑み残して
そよ風の音楽残して

5b●木の音

晴れた日ならば
木陰でお休み
ゆっくりと
優しい木の音 枝の音

雨の日ならば
木陰でお休み
目を閉じて
静かな葉の音 雨の音

5c●枇杷の木(「言葉のメモワール」より)

庭の枇杷の木に
今年も枇杷の実がなった

日々の祈りのように
どこか謙虚な姿で

あたりまえのありがたさを示す恵みのように
感謝の微笑みのようになっていた

穏やかな午後だった

5d●木(「言葉のメモワール」13より改訂)

天に手を伸ばす木
空に触れる木
風の音に頷く木
土を抱きしめる木
肩に鳥を止まらせる木
傘になって地表を守る木

枝が揺れる
葉がそよぐ
木は
雨の日にも歌いながら
懸命に
世界を結び付けている
それが木に与えられた役割なのだから

「人」
誰かが私を見つめてくれた
誰かが私を撫でてくれた
誰かが私に語ってくれた
誰かが私に歌ってくれた
だから私は美しいものを知っている
だから私は温かいものを知っている
だから私は言葉を知っている
だから私は歌を知っている
だから私は愛することを知っている
だから私は生きている

ありがとう

6●ありがとうを贈ります

ありがとう
空よ
私を見守る空よ
あなたはいつも私に
広い心を教えてくれた
夕焼け空、星空
真っ暗になっても必ずもとの姿を見せてくれる空
自由な青空
やさしい曇り空
空よ、ありがとう

ありがとう
風よ
私を駆け抜ける風よ
あなたはいつも私に
何かを運んできてくれた
春の風、そよ風
流した涙は必ず乾かしてくれる風
爽やかな朝の風
気まぐれな午後の風
風よ、ありがとう

ありがとう
海よ
私の胸の奥に広がる海よ
あなたはいつも私に
何かを思い出させてくれた
寄せる波、返す波
思い出で胸をあたためてくれる海
遥かな水平線
煌めく波打ち際
海よ、ありがとう




2015.12
作曲:北川 昇  20145