◎ミルテの花(絵)
穏やかな午後
そよ風が木の葉を撫で、鳥のさえずりが聞こえます
さあ、明日は孫娘の結婚式
木漏れ日の中で
私はミルテの花を編み、花輪を作っています
私は思い出す
あの日のことを
五月の花の香りとともに
私は思い出す
心ときめかすあのピアノの音とともに
1.あなたに出逢ってから
出逢ってからこの瞳
見つめるのはあなただけ
胸に浮かぶ幻は
闇の底から
鮮やかに
他のこと色褪せゆき
私を呼ぶ声聞こえず
あなたを思い窓辺に立ち
心は乱れ
悩む日よ
◎夢見る少女の顔(絵)
私にもそんなときがあったのよ
そう言うと、あなたたちは笑うでしょう
大地が弾んでいたときが…
私のスキップとともに
バラの蕾が膨らんだときが…
私の微笑みとともに
世界は私とともにあり、私は世界に祝福されていた
私は恋に落ちた
それは、太陽に照らされたせせらぎのように
きらきらと輝やいていたのよ
2.世界の誰より
世界の誰より麗しき方
凛々しき口元
瞳は明るく
遥かの彼方に光る星の様に
私の心の空に煌く
私は見つめる
清らな輝き
悲しみ喜び
渦巻く胸で
私の祈りをあなたは知らない
でも
私のことは構わないでいいのよ
ああ、貴(とうと)き方
世の乙女の中で選ばれた方を
私は讃えたい、心より
微笑むあなたを見つめていたい
この気持ち破れ、砕け果てても
世界の誰より麗しき方
凛々しき口元
瞳は明るく
ああ、愛(いと)しき方よ
◎凛々しい男性と困ったような少女の顔(絵)
愛するって素敵なこと
でも、
愛されるって、
戸惑いと不安がつきもの
本当にそんなことあって良いのかなって思ったものよ
あの人が私のことを見ていてくれたなんて
でも心の底から願っていたのね
そして、そういうことは、あらかじめ決まっているのかもしれない
そう思ったものよ
3.ああ、これは夢なの
ああ、これは夢か、幻なのか
愛するあなたが、私にかけた言葉
あなたは語った
永遠(とわ)の愛を
あなたは誓った
それは夢か幻なのか
夢ならこのままで
私を死なせて
あなたに抱(いだ)かれ
この身を閉じたい
ああ、これは夢か、幻なのか
愛するあなたが、私にかけた言葉
ああ、これは夢か、幻なのか
◎指輪(絵)
指輪よ
お前が宿しているもの
それは私の想い出
幼かった頃
いつも見上げた庭の樹の枝
引き出しにしまった綺麗な小石
指輪よ
お前が映しているもの
それはまなざし
私の生まれたときの
私の母の
母の瞳に映る私の姿
指輪よ
お前が映しているもの
それは私の未来
私の娘の
そのまた娘の微笑み
指輪よ
お前が映しているもの
それは
私の涙
悲しみと喜びをかみしめた
私の愛のしずく
指輪よ
お前は時間
お前は鏡
お前は優しく澄んだ歌声
指輪よ
お前は私
どこにもいかないで私の胸に抱かれ
私の口づけを受けておくれ
そして、いつか消えていく私の代わりに
永遠に輝いておくれ
4.私の指の指輪よ
私の指の金色の指輪よ
あなたを抱(いだ)き
口づけし
私の胸の扉開く
幼き日の夢も楽しき語らいも
今は遠く去りて一人悩む日々よ
指輪よお前を見ると
心晴れ渡り
夢の輝きに私は気づき頷く
あなたは私の命の源(みなもと)
あなたとともに生きていく
この命尽き果てるまで
私の指の指輪よ
永久(とこしえ)に輝け
あなたを抱(いだ)き口づけし
私はいま心に誓う
◎妹たち(絵)
私は愛する人と出会い、
愛を育み
そして結ばれた
嫁ぐ前の日、私は妹の手を取って言った
妹よ、大切な妹よ
私はあなたの口元を拭き、あなたの髪を編んだのよ
私はあなたの靴紐を結び、あなたの帽子を直したのよ
私はあなたのために花を摘み、あなたのためにミルクを温めたのよ
この手を忘れないでね
いつも守っているつもりだった
いつも一緒だったあなた
私大丈夫かしら
お願いね
この手を放さないで
さあ、妹よ
私の背中を押して
私はそう言ったの
5.さあ、妹よ
さあ、妹
手伝って
綺麗な服を纏(まと)わせて
私の額(ひたい)にもミルテの花を飾ってね
私が微笑んで
あの人のもとへ行けば
あの人はもどかしくこの日のことを待ち詫びた
さあ、妹
私を見て
心配ないよ、と言ってね
憂いなど見せないであの人を迎えたいの
愛(いと)しいあの人を笑顔で迎えたいの
今日からは、私はあの人とともに生きる
さあ、妹
薔薇を取って
あの人を飾ってよ
でも妹よ
あなたとは今日が最後の日よ
そっと手を握らせて
◎季節が回っていく、星、月、花、雲(絵)
6.トロイメライ(夢見るあなたを見つめ)
夢広がりゆく
ほのかな秘密の物語
薔薇の蕾ほどけ
甘き香りのみ漂う
眠れ、風に抱かれ
雲から翼が舞い降りる
時、扉開き
遠き星の空彷徨う
波、押し寄せる
夕べの私の涙
この苦しみさえ
あなたの寝息に消え行く
窓辺、日差し溢れ
瞼に微笑み訪れる
夢の物語は
いつの日か、私に、お話してね
◎ベッドと窓(絵)
人生には大きな謎がいくつもあるのね
幸せってなんだろう
あの人と手を取り、向き合って、一緒に日々を過ごすこと
夢のように想い描いたことが
目の前にある
こんなに幸せで良いのって思ったものよ
幸せ…
それは
願った窓に光る流れ星のよう
掴んだ手からもれる月のしずくのよう
私はこれをずっと持っていられるだろうか
そう思ったものよ
7.あなたには分かるまい
あなたは分からないでしょう
涙込み上げる訳を
輝く真珠の光が
この心から溢れる
胸は喜び戸惑い
言葉探して彷徨(さまよ)う
あなた、この胸の中で
私のささやき聞いて
愛(いと)しいあなた
分かるでしょう?
私の流した涙の訳を
どうか聞いて
離れないで
私の胸の鼓動の高鳴り!
ああ、
私たちの憧れ
揺り籠の中に隠して
夢から覚めた朝には
あなたの微笑む姿が浮かぶの
◎赤ん坊を抱く女(絵)
命と愛
それはつながっていくもの
私の中で新しい命の音がしたとき
私は私の人生に託された意味を感じた
愛しさの向こうに
愛された記憶が押し寄せた
私が生きてきた意味
私が託されたもの
私は愛されて生まれ
今、新しい命を愛しんでいる
命と愛が繋がっているものだということに気づいたのです
8.この胸に抱いて
この胸に抱(いだ)かれ目を閉じる我が子よ
愛するこの喜びは、言葉には出来ない
私は幸せよ
この胸に抱いて
我が子を育み
愛する幸せよ
私は気付いた
愛する喜び
母の身となって
幸せの真実に
天からの恵みよ
美しい微笑みよ
この胸に抱かれて私を見る我が子よ
◎十字架と涙を流す女(絵)
ああ、人生のはかなさとむなしさを
私はなんと表現したらよいのでしょうか
ああ、突然に訪れる悲しみのことを
私はなんと表現したらよいのでしょうか
朝には笑顔で昇って行った太陽が
夕方に死に絶えるってことはあるの?
私は愛を死に奪われた
幸せが不幸せの隣にあったということを
私は
その時に気づいた
愛する人は死んだ
私をおいて
幸せの意味を
謎のように残して…
9.胸の痛み
ああ、胸の痛みはこの身を引き裂き
あなたは冷たくここに眠る
私は涙も枯れ、今は空しく
二人の日は過ぎ
ただ、一人きり
私の世界は幕を下ろす
あなたとともに生きた
私の…
◎少女の手を握る女(絵)
(前奏の中で)
過ぎてみると
想い出はまるで揺れ動く木漏れ日のように
穏やかに蘇ります
人生とは短すぎるのか長すぎるのか私には分からない
時間とは、ときに積み重なり、ときにふっと飛び越えていくようで
私には不思議でならないのです
私は人を愛し人に愛され
結ばれ
新しい命を授かり
愛する人を失い
平凡ではあるかもしれないけれど
様々な感情と向き合ってきた
孫娘よ
ミルテの花飾りとともに
あなたに伝えたいことがあるのよ
それは、人生の喜びと苦しみ
その中心に愛があるということ
時代が変わり、考え方も生き方も様々
私とあなたは違うでしょう
でも愛は変わらず根っこのように私たちの人生を支えるもの
愛はあなたに喜びと悲しみを与えるでしょう
愛ゆえに、あなたは様々な苦しみを耐えねばならないでしょう
あなたはたくさんの涙を流すことになるかもしれない
でもひとを思い、ひとに思われることは
人生の尊さそのもの
その気持ちに支えられてください
勇気をもって人を愛し
感謝をもって人に愛されなさい
どんな人生もあなたの人生
あなただけの輝きを持つ人生なのですよ
愛をもって、人生を力強く生きていってくださいね
10-1,2.かけがえのない夢の日々
(10-1)
私にもかけがえのない日々があった
でも、それも今は思い出
私の目の前にはお前がいる
私の娘の娘
愛しいお前が着飾っている
きいておくれ
私の最後の言葉を
お前を祝福する
私の言葉を
私もすっかり年を取り
髪も白くなったけれど
かつては胸をときめかせ
ミルテの花で飾られた
お前のように輝いていた
お前のように恋をして
お前のように結ばれた
喜びも悲しみも
時の流れに任せなさい
ただ変わらない真実を
お前の中でお持ちなさい
それは愛すること
誰かを愛すること
愛することはお前の真実
私があの人を葬ったあとも
私は変わらぬ愛を持っていた
悲しみに心が張り裂けようと
苦しみに胸が破れようと
愛する気持ちが私を支え
愛する気持ちが勇気となった
私がこんなに年老いても
愛は美しいあかりとなって
私の心に灯っている
聴いておくれ
私の最後の言葉を
触れておくれ、
私の手に
私の指の指輪に
それは私の言葉
(10-2)
お前の心が砕けそうになっても
お前が涙にくれる日々を過しても
勇気を持ち続けて欲しい
愛はときに大きな悲痛に変わるもの
でも、愛することの痛みすら
お前の命を支えるのだから
愛することは人生の宝物だから
2019.12
原詩:Chamisso 作曲:千原英喜 2019