アトムは夢を見た
自分が一人の少年である夢を
ロボットであることから離れて
百万馬力であることも忘れ
空も飛ばず
敵も倒さず
正義の味方なんかではなく
ピンチも救えず
開け放した窓に肘をつき
去っていく女の子を見送る少年になっている夢を
机に向かい頭を抱え
公園のベンチでつい居眠りしてしまうような
給食の時間のお代わりに勇んで手を挙げるような
そんな自分を夢見ていた
アトムには分かっていた
自分の役割や立場を
そしてこの苦悩を
それはロボットであることの苦悩ではなく
人間に近づこうとしてしまっている自分自身に対する苦悩であることを
無意識に持った憧れと現実との狭間の身を引き裂かれるもどかしさであることを
しかし
夢見ていた
いつかピノキオのように
ある日突然少年になった自分のことを
全速力で野原を走って
転んで膝を擦り剥く自分のことを
遠い憧れの向こう側に夢見ていた
2010.12.1