合唱狂言サンタクロースの巻

■太郎(年配のサンタクロース)
□次郎(泥棒)
●父1
◎母1
○子1、2
※歌1、2、3、4、5、6



※歌 :ディング、ドング、ディング、ドン。(鐘の音のコーラスが続く)
    さる年の瀬のクリスマス。鐘の音(ね)、鈴の音(ね)鳴り響き、
    賑わう街を後にして、夕餉に憩う軒先の、陰に佇む男あり。
    夜(よ)の更くるのを待ちにけり。


(次郎登場)
□次 :おお寒い寒い、このあたりの悪者でござる
□次 :時節は年末、悪者にとっては一つ稼ぎどき
□次 :大きな声では言えぬが、拙者、泥棒
□次 :まあ、悪しきこととは知りながら、しばらくそれを生業としておる
□次 :では、仕事の準備をして参る
□次 :ああ、寒い寒い、寒いのは苦手だ

※歌 :リン、リン、リン、リン、リン、リリン、リン。(鈴の音のコーラスが続く)
    サンタクロースがやってきた。鈴の音響かせやってきた。
    大きな荷物を背に担ぎ、サンタクロースがやってきた。


(太郎登場)
■太 :おお暑い暑い、サンタクロースにござる
■太 :このあたり、私の割り当て地区にてござる 今年は暖冬とみた
■太 :私の故郷から見れば、なんと温かなことか
■太 :さて、仕事の準備をせねばならない
■太 :忙しい忙しい
■太 :少子化だとて、子どもはたくさんおるわい
■太 :何せ、腰が痛うて、思うように捗らんわい


(次郎、サンタの衣装にて再登場)
□次 :そろそろ家の者も寝入る頃、忍び込むにはもってこい
□次 :万が一にも見つかったときには
□次 :メリークリスマス!とにこやかに…、この衣装が役に立つ
□次 :やれやれ、窓が開いておる、どれガラガラ
     (※ガラガラガラガラ)


(両者出くわす)
■太 :おっと
□次 :おっとっと
■太 :おっとっとっと
□次 :おっとととっとっと、にこやかに、メリークリスマス!
■太 :メリークリスマス!!
□次 :いやいや、同業者かな
■太 :いかにも、わしもサンタクロース、識別番号1135648
□次 :さ、さ、サンタクロース、し、し、識別番号?
■太 :なに?そなた、見慣れんが、ここの受け持ちだったかな?
□次 :いや、あの、うう、
□次 :サンタ?本物の??
■太 :わしの偽物がいると言うのか?
□次 :いや、あの私もそうなのですが、し、識別番号4685872
■太 :46、、ああ新米かな
□次 :あ、し、し、しんまい…、そうそう、なり立てでございます
■太 :帽子を忘れておるではないか
□次 :あ、そ、そう言えば、先の家で落としてしまいました
■太 :付け髭はどうした?
□次 :あ、そ、そう言えば、先の家で落としてしまいました
■太 :慌て者じゃなあ、
□次 :何せ、慣れないものにて
■太 :ほれ、予備に持っていたものを貸してやろう、ちょっと古いが
□次 :それはかたじけなや、ありがたや、確かに古くさいなあ
■太 :お前、もう配り終えたのか
□次 :あ、これから、いや、…もう配り終えたところにて
■太 :若いのは良いな
□次 :はは、それだけが取り柄にて
■太 :ならば、一つ手伝ってくれまいか、最近腰が痛うて
□次 :了解いたした。お安い御用にて


※歌 :悪事を働く算段で
    忍び込みたるその先で
    サンタクロースと出会いたる
    男は事を偽りて
    サンタクロースの荷を背負い
    プレゼントを配りけり
    陽気な歌声響かせて


(プレゼントを配る両者)

■太 :いやいや楽ちんだ、ありがたやありがたや
□次 :お安い御用にてございます
■太 :持つべきものは助手じゃなあ
■太 :お、次の家だ、正面から入るぞ。ピンポーン。
    (※ピンポーン、ピンポーン)


※歌 :ああ、楽しきや、クリスマス
    色とりどりの灯りが揺れて
    弾む笑顔に声が散る
    ああ、楽しきや、クリスマス。


(父子の家で)

●父 :今夜は、ありがとうございます
○子 :サンタのおじさん?
●父 :わが子がひと言お詫び申し上げたいと、起きておりました
○子 :去年いただいた毛糸の帽子なくしてしまったのです。
    大事にしてたのに。落として出て来ないのです。
■太 :そうかそうか、それは仕方ないのお
○子 :せっかくいただいたのに、ごめんなさいと言いたくて
■太 :いやいや、そんなことはあるとも。どうれ、どこにあるか見てやるか。
□次 :そんなことが出来るのかな
■太 :お前も出来るだろうが、遠眼鏡で見ると、ははー。公園が見える
    公園で落としたと見られるが、それから風に運ばれ、川に落ちて
    流れに運ばれ下流の河原で小さな子ネズミの宿となっておるなあ
    まあ良いではないか。
    新しい帽子をやろう。大きくもなったろう
○子 :ありがとうございます
□次 :ほほー、得したなあ坊主
●父 :ありがとうございます。感謝いたします。
□次 :今度はなくさないようにねえ。
●父 :今日は、お若い方とお二人で来られたのですか?
■太 :こちらは見習い
□次 :いかにも見習い。お嬢ちゃん、ひとつ賢くなあ
○子 :ありがとうございます、見習いのおじさんも頑張って
□次 :もちろんさ

■太 :さあ次へ行こう
□次 :姿を見られても良いものですかねえ
■太 :まあ気にしない気にしない、子どもは素直でかわいいものだ。
    大人になると夢だったかと思うものだ
□次 :お礼を言われるのも気持ちが良いものだなあ
■太 :だからサンタはやめられんのだよ、1年間の苦労が報われる
□次 :1年間?
■太 :お前も知っておるだろう、寒い国で木を伐りながら暮らす苦労を。
    カッタン、カッタン(斧を振る)、ギコギコギコギコ(ノコギリを挽く)…
    しかし、子等の言葉には代えられん。おっと次の家だ。
    窓ガラスをガラガラガラ。っと鍵がかかってるなあ。
□次 :この手の鍵ならちょちょちょいっと。
■太 :何を言っておる、魔法の手袋があるだろうが。ほれスルスルスル。
    (※スルスルスル)
□次 :へえ、それがあればいつでも入れるじゃん
■太 :何を言っておる、お前もそれで入ってるんだろうが。
□次 :い、いやそうでした。大きな手袋だなあ、と。私のよりちょっとね。
■太 :静かにせい。行くぞ。


(寝た子の部屋)

□次 :今度のプレゼントは…、と。
■太 :ここの子は寝たままだな、そろりと枕元へ置け
□次 :そろりそろりと
   (※そろり、そろり…)
□次 :何やらあります
■太 :置手紙では?
□次 :なになに、今年も来てくれてサンタさんありがとう。去年のマフラー温かかったよ。
□次 :かわいい寝顔だ、いつまでも見てられるなあ。良い夢見てるのだろうなあ
    よし、ひとつ今年は手袋としよう
■太 :よし、次だ。荷物が減っていくのはありがたい。


※歌 :夢見る子供の寝顔を眺め、静かに歌を歌いたる。

※歌 :立ち込む湯気の温かき。憩いの一夜の夢のとき
    クリスマスの夜は更くる。。


□次 :きーよしーこーのよる(ドラ声)
■太 :うるさい、次行くぞ


(歩きながら)

■太 :どうやら次の家が最後のように思われる。
    母子二人で、母親が病に伏しており、子どもが母さんの手伝いをしておるんだ。
□次 :母さんの手伝いか、なんと健気な、どうやら私は生き方を変えないといけない。
    もう今日を限りに泥棒稼業は廃業し、明日からしっかり働くとしよう。
    ハローワークにでも行くか。
■太 :何をぶつぶつ言っておる。夜明けが近いぞ、やりとげないと。
□次 :がってん承知

■太 :わしも若い頃は、この袋の二つや三つを担いだものだが、ドッコイショ。
□次 :ところで、先輩は何歳ですか?
■太 :1256歳
□次 :うう、、なんとなんとなんと、
■太 :家に入るぞ。表から入る。カランカランカラン
    (※カランカランカラン)


(母子の家)

◎母 :私が病気ですので、プレゼントも買えず、サンタクロースさまに来ていただき。
    かたじけなく存じます。
○子 :ありがとう
■太 :いかにも、親孝行しておやりなさい
□次 :しっかり勉強して、わしのようにならず、、う、いや、立派な大人になりなさい。
    お前は何をしていたのだ。
○子 :母のためにスープを作ろうと。
□次 :感心感心。しかし、私のほうがうまいぞ
    サンタをする前にコックをしていったので。
    どうれ、母のためにスープ作りを手伝ってやろう。
■太 :なあに、わしに任せろ。
    わしの国のクリスマス料理をちょちょいのちょいで出してやる。
    ミルク粥に、ジンジャークッキー、美味しいタルトで
    あとはお嬢ちゃんのそのお母さんへの真心をぎゅっと絞れば…、
    美味しい料理の出来上がり。食べると笑顔になること間違いなし。


※歌 :食べよ歌えよクリスマス。リーシプーロはミルク粥
    シナモンバターにベリーを混ぜて。ピパルカックはジンジャー風味
    ヨウルトルットゥ、トゥットゥルトゥー
    刻んで炒めて温めて、愛情一つアーモンド 笑う門には福来る


◎母+子:サンタさんありがとうございます
■太+次:元気でな


(配り終えた両者)

■太 :今年も何とか無事に配り終えた。ただこの腰では、あと10年はもたんなあ。
□次 :いつでも荷物は持ちますが
■太 :ところでお前、橇はどこに着けた
□次 :橇?
■太 :まさか、、トナカイだけ先に帰ってるってことではなかろうなあ
□次 :と、となかい
■太 :若造のときはよく失敗するんじゃ
□次 :いいやあ
■太 :今日はよう助けてくれたので、私が乗せて帰ろう。さあさあ。
    わしの橇は、そこのほれ、歌劇場の楽屋につけてある。
    トナカイにはルマンのエッグサンドを食べさせておるのじゃ。
□次 :う、エッグサンド、エッグサンド…、おいしいだろうなあ。
□次 :いやあ、私は明日から真人間になると決めたところですが
■太 :何を言うておる、明日は寝てて良い。明後日からは雪かきじゃ。さあさあ
□次 :いやいや
■太 :さあさあ、帰るぞ
□次 :いやいや、寒さに弱いので
■太 :何を言うておる、遠慮するな、雪道はトナカイに限る
□次 :いやいや
■太 :さあさあ


※歌 :ディング、ドング、ディング、ドン、クリスマスの夜は明けて
    賑わい終えた街角も、新たな曙光に照らされる。
    橇を引きたるトナカイの、鈴の音細く遠ざかる。
    (※リンリンリン、リリンリン…鈴の音遠ざかる)


□次 :いやいや
■太 :さあさあ




作曲:千原英喜  2018