珈琲

その天使は珈琲を飲んで人間になった
冬の明け方のカフェで
ちょっと早く降りすぎたのか
日に当たらずに身体を温める術を知らず
深夜の労働者を癒す立ち飲みのスタンドで
主人に出された珈琲を飲んだ

街は静かに目覚め始め
シャッターの開く音
トラックの通る音
始まる喧騒の中で
天使は身体のぬくもりとともに人間になった
コートの襟を立て
やや背中を丸めて
苦味を啜る若者の姿に

指先から血が通い心臓に伝わり
頬を赤く染めた

思いもかけず
白い息が弾んだ
一杯の苦い珈琲によって


2010.12.1