老人

その老人は森の木の切り株の上に座っていた
長いこと
顎鬚は地面につくくらい長かった

老人は目を閉じたまま姿勢を変えず居眠りをしていた
杖を持ったまま
ずっと
春の朝にも
秋の午後にも
規則正しい呼吸の音が森の空気にこだました

髭が伸びた
髪も眉も伸び続けた

老人はいつの間にか木になっていた
私は何か聞かねばならなかったのに
何を語ることもなく


2010.12.1