さて、この「くるみ割り人形」のお話しは、昔々とある国から始まります。
とある国というのは、お菓子の国。そのシュトーレン城の王子と、些細なことから恨みをもったネズミの女王のお話しです。
●序曲
ルッルル ルルルル ほら始まる
ルッルル ルルル 不思議なお話
ルッルル ルルルル ほら聞こえる
ルッルル ルルル 素敵な歌声
(始まるよ 聞こえるよ)
夢の扉覗いてごらんよ
時の向こうの魔法の扉
心の奥で見る
窓辺の雪明り
耳をすませば、聞こえてくる
おとぎの国の音楽会さ
瞳閉じれば、始まり出す
おとぎの国の楽しい宴
(聞こえるよ 始まるよ)
風の扉開いてごらんよ
時の向こうの魔法の扉
瞳の奥で聞く
星降る空の音
ネズミの女王は、このシュトーレン城の王子の16回目の誕生会に出かけたのですが、お城まで行ったのに招待リストに入っておらず、呼ばれて居なかったことが分かりました。ネズミの女王は、「せっかく着飾ってきたのに」と怒り狂い、履いて行った靴を投げつけたのです。しかし、ちょうど投げつけたのが固い氷砂糖で出来た柱の部分でしたので、靴は跳ね返り、女王の顔に当たりました。女王は転んで頭をぶつけて死んでしまいますが、死ぬ間際に、呪いをかけて王子を人形の姿に変えてしまうのです。
「いまいましい、王子など一生醜いくるみ割り人形の姿で過ごすが良いわ」
そのように言い残した女王はありったけの魔術を掛け、呪いの元である固いクルミの実を城に向かって投げつけると、そのまま息を引き取りました。
王子は不格好で変な顔をしたくるみ割り人形の兵隊姿になってしまったのです。
シュトーレン城の王様と御妃様はたいそう悲しまれましたが、よほど強い呪いのようで、どのような祈祷師を呼んでも、どのような医師を呼んでも、姿はもとに戻りませんでした。最後に頼りにしたのは、時計修理をしているドロッセルマイヤーという男でした。ドロッセルマイヤーは長らく時計修理をしているうちに、時のあちら側とこちら側を自由に行き来出来るようになっていましたので、お菓子の国の世界と私たちの世界とを行き来しながら、文献を読み漁りこの呪いを破る方法を考えました。
「固いクルミの呪いを破るには、力づくではならないようです。この醜い人形を愛するやさしい心が必要なようです」
ドロッセルマイヤーは、王にそう告げると、王子が姿を変えたくるみ割人形を携え、心のやさしい人を探しながら時計修理の旅をしていたのでした。
そしてあるクリスマスイブ。
●行進曲
部屋のあかり灯せ、雪の窓辺照らせ
楽しいこの夜、鈴の音聞こえる、緑のリボンも揺れている
丸いりんごのタルト、こんがり焼いて運べ
楽しいテーブル、歌声弾むよ、輝く笑顔にプレゼント
トゥランラララランラン ラッラッラー
トゥットゥルットゥ ルットゥットゥ(メロディーに合わせ、スキャット風)
暖炉の槇をくべて、明るく炎燃やせ
素敵なこの夜、橇の音響くよ、ワルツを奏でるオルゴール
甘いいちごのジャムに、小さなクルミのケーキ
華やぐテーブル、色どり弾けて、天使のハープも鳴り響く
部屋のあかり灯せ、雪の窓辺照らせ
楽しいこの夜、鈴の音聞こえる、緑のリボンも揺れている
丸いりんごのタルト、こんがり焼いて運べ
楽しいテーブル、歌声弾むよ、輝く笑顔にプレゼント
トゥランラララランラン ラッラッラー
トゥットゥルットゥ ルットゥットゥ(メロディーに合わせ、スキャット風)
暖炉の槇をくべて、明るく炎燃やせ
素敵なこの夜、橇の音響くよ、ワルツを奏でるオルゴール
甘いいちごのジャムに、小さなクルミのケーキ
華やぐテーブル、色どり弾けて、天使のハープも鳴り響く
クララは弟のフリッツとともに客間の大きなクリスマスツリーの飾りつけを手伝い、ローソクを燈して、お客様たちを迎え入れました。楽しい夜が更け、そろそろ眠たくなってきたころに、遠い親戚でもあるドロッセルマイヤーおじさんがドアをノックしました。
ドロッセルマイヤーは、いつも突然現れては、まるで手品のように珍しいおもちゃを見せてくれたりするのです。この日も子どもたちを集めるとばね仕掛けで動く人形のおもちゃを見せてくれました。夢中になって見ていたフリッツには飛行機のおもちゃをプレゼントし、クララにはいくつかの人形の中から欲しいものを選ばせてくれました。クララは、素敵なドレスのお姫様や可愛い坊やの人形でもなく、兵隊さんの恰好をした風変りな人相のくるみ割り人形を選び、プレゼントしてもらいました。
ところが、フリッツは、悪戯にクララのもらったくるみ割人形を取り上げると、その容姿を面白がって無理やり髭を引っ張ったり、乱暴に扱ったために、くるみ割人形は片方のあごが外れてしまったのです。
「何てことするの、とっても気に入っていたのに」
クララは泣きながらけがをしたくるみ割人形を大事そうに抱きかかえると顎を包帯で丁寧に巻き付けました
「この人形は私の人形なの、私が看病するの」
大事そうにクルミ割り人形を抱き寝室に帰ろうとするクララを見ると、ドロッセルマイヤーは、クララを呼び止め、手を差し伸べました。
「よしよし、お前はやさしい心を持っているね。傷は、その程度なら大丈夫、私が直しておこう」
そして、クララの抱きかかえたくるみ割人形を手に取ると、もっていた木の工具を使って顎の外れたくるみ割人形をきれいに修理しました。
「きっと人形は、まだ痛がってるから、何度もさすってやるんだよ」
ドロッセルマイヤーそう言って帰って行きました。
クララはすっかり嬉しくなって、何度も人形の顔を眺めると、その夜は人形を抱きかかえたまま、自分の寝室のベッドに潜り込んだのでした。
●クリスマスの夜は更けて
~チャイコフスキー「四季」の12月より
はじめまして 素敵なひとね
まっすぐに 前を見る きれいなひとみね
雪の国から 私の部屋へ
橇に乗り 旅をして こうして 会いに 来てくれーたのね
こよいこそは たのしい夜を
雪の降る クリスマス ココアはいかがです
おはなしして たのしい旅の
ものがたり 夢の中 私を連れて行ってほしいの
その夜です。静まり返った寝室でクララは何やら物音を聞きつけ目覚めました。
なんてことでしょうか、ネズミの大群が現れたのです。見たこともない数のネズミたちがクララの部屋に押し寄せ、寝室にあったお菓子を漁っているではありませんか。そしてとてもつもない大きさの薄黒いネズミの将軍が指示を出しています。
しかも、クララが目覚めたことを知ると、大声で言いました。
「お前のもらったお菓子を全部よこせ、齧りつくしてやる、それが終われば人形もだ」
ネズミたちは、クララの足元に向かって体当たりしてきたのでした。
「やめてちょうだい」
クララが大声で言いました。
父さんも母さんも聞こえないのだろうか、と思いながら悲鳴を出し続けていたとき、遠くから軍隊ラッパの音が聞こえてきました。
見ると、クララが抱きかかえていたはずのくるみ割り人形が動き出しています。そしてフリッツの部屋にいた兵隊の人形たちを引き連れて指揮をしているではありませんか。
しかし、ねずみの大群は怯むことなく、攻撃してきます。そして、号令をかけていたくるみ割り人形も5,6匹のネズミたちに体当たりされて、倒れてしまいました。
それを見たクララは夢中になって自分の履いていたスリッパを手に取ると、力いっぱい投げつけました。
するとどうやら、スリッパはネズミの将軍の目に当たり、将軍がよろめいたので、ネズミたちはいっせいに将軍を担ぎながら引き返したのでした。
あまりのことにクララは気絶をしてしまいました。
そして、気が付くと寝室の床に倒れており、耳元にはくるみ割人形がいたのです。
「危ないところを救っていただき、ありがとうございました、あのネズミたちは私を追ってきたのだと思います」
くるみ割り人形は凛々しい態度で言いました。
「お礼に、私の故郷をご案内しましょう、私の故郷はお菓子の国なのです」
人形はそう言いました。
「そうなの、お菓子の国?そんなことが本当にあるの?案内してもらえるの?嬉しい」
クララは思わず起き上がりました。
そして、その瞬間、クララが抱きかかえていたくるみ割り人形は実際の兵隊さんのような大きさになりました。そして、そこには2頭立ての馬車があったのです。
クルミ割り人形はうやうやしくクララに手を差し伸べると、クララを馬車に乗せました。とても優雅な態度でした。そして、気が付くとクララを乗せた馬車は一面に樅の木が生い茂る森の中の雪道を走っているのでした。
森には静かに粉雪が舞っていて、それは星屑を散らせたようでした。
クララはその美しい光景にすっかり心を奪われました。
●雪片のワルツ
降れ森に 雪よふれ
降れ星よ 我らを照らせ(よ)
降れ森に 雪よふれ
降れ星よ 我らを照らせ(よ)
降れ雪よ 森に降れ
降れ星よ 森を眠らせ(よ)
降れ森に 雪よふれ
降れ星よ 我らを照らせ(よ)
【朗読】
ゆきに覆われた松林
きらきらひかる銀の世界
雪の妖精たちの舞い踊る世界
そこは、シュトーレン城への入り口にあたる深い森なのでした
馬車はやがて、お菓子の国のお城に到着しました。
目の前には月灯りに白く輝く立派なお城が聳え立っていました。
「ここがあなたのお城なの?あなたはここの兵隊さん?」
クララが目を丸くして驚きながら訊ねたその時です。
二人がお城に辿り着いたのを見計らって、再びネズミの大群が再び二人もろともお城を目掛けて襲ってきたのでした。クララの寝室でクララたちを襲ってきたあのネズミの大群でした。
くるみ割り人形は、落ち着いた態度で指笛を鳴らしました。
するとお城からは、一斉に兵隊たちが現れ、ネズミたちの前に一列に並ぶと、号令によって氷砂糖で出来た矢を放ちました。くるみ割り人形が続いて合図をすると、次には鉄砲隊が現れました。これまた一列に居並ぶと今度はラムネの弾が込められた銃を討ちました。
そして、さらに指示をすると、砲弾として仕込まれた青くて堅いアプリコットの実がネズミの軍勢に向かって放たれました。
ズドーン、ズドーン
そんな轟音を立てながら、それらはネズミにぶつかりました。ネズミの大群は退散を始め出したのです。
●くるみ割り人形とねずみたちの戦い
~チャイコフスキー交響曲4番4楽章より
いまこそ、剣(けん)を抜け 侵略を許すな
さあ、城を守れ、戦いのときはきた
輝けオーロラよ 広がれオーロラよ
我らを守れ 我らを導け
いま こそ
その とき
ゆう きを
たぎ らせ
いまこそ、矢をつがえ、横暴を許すな
さあ、国を守れ、決着をつけるぞ
きらめけ星空 またたけ星空
この夜を照らせ この夜に香れ
白樺の森よ 白樺の木々よ
我らを守れ 力を与えよ
剣(つるぎ)構え 守りぬくぞ
誇り高く 我らの街を
声を合わせ 守りぬくぞ
力漲る我らの 声を いざいざいざ さあ
戦いが終わりました。戦いには勝ったものの、あまりの激しい戦いにクルミ割り人形がばったりと倒れてしまったので、クララはクルミ割り人形の元に駆け寄りました。そしてぐっと肩を抱き寄せたのでした。するとどうでしょうか。堅く冷たかったくるみ割人形の身体が少しずつ温かく柔らかくなってきたのです。まるで血が通っていくように。
クララは驚きながら目を見開き、人形から離れるとわっと声をあげ、息を飲みました。
何ということでしょうか。不格好な顔の人形の兵隊さんは、みるみるうちに美しい王子の姿に変わっていったのです。
王子は言いました。
「クララさん、ありがとう、私にかけられていたねずみの呪いが解けたのです。私は、その呪いによって長い間くるみ割人形にされていたのです。私はこのシュトーレン城の王子なのです」
そして、王子はその手をほどくと、今度はゆっくりやさしくクララの手に口づけをしました。
クララは胸が張り裂けそうでした。
王子はクララの手を取ると言いました。
「あなたは私の命の恩人です。私はおかげで、この姿で父や母にも再会することが出来ます」
クララはどきどきして声も出ませんでした。
何だか大変なことや素敵なことがありすぎて夢のようだと思いました。
●6メロディ ~チャイコフスキー「懐かしい地の思い出/メロディ」
雪降る夜更けに
木々は皆眠る
憧れの世界
いつまでも傍(そば)に
窓辺のともしび
静かに揺らめく
夢に見た人よ
胸の中に
わたしは しりたいの
ひみつの とびらひらき
あなたを あいしたい
とけいが うごきだすまでに(てをとり)
わたしは たびをする
まほうの もりをこえ
あなたを みつめたい
せかいが もとにもどるまえに(いのちをかけて)
あいのうたを
うたいたい
あいのことば
ききたいの
いつのひか いつまでも
いつのひか いつまでも
いつのひか いつまでも
まっている あいのうた
いつまでも
ゆめをみて
こいをして
懐かしの地へと(なつかしき) 夢に見た地へと
馬車は走り出す(思い出の) 私は旅する
振り返る私(あのときの) 振り仰ぐ空に
遠ざかる灯り(ほほえみを) 星流れる夜
手を振るあなたを 導くあなたを
私は見つめる 私は見つめる
いつまでも いつまでも
ほおを熱く濡らし 涙を 胸に残る声で ささやき
あなたは あなたは
わたしの わたしを
ゆめの ゆめの
なかで なかに
口づけを 抱き寄せた
そっとささやいて
しずかに微笑み
クララは本来の姿を取り戻した王子のお城に招待されました。
「お礼に私たちのお城で繰り広げられる珍しいダンスをお見せしましょう」
王子はそう言うとクララの手を取り、お城の宮殿のへと案内しました。
美しい絨毯、美しいステンドグラス、何で出来ているか分からない豪華なシャンデリアや宝石のように輝く装飾品の数々にクララは目を奪われました。
「ここでは、世界中のお菓子が集められています」
王子はそう言うとクララをレモネードやシャンパンの噴水がある中庭へと案内します
「ここでは、世界中のお菓子の精たちによって様々な珍しい舞踏が繰り広げられているのですよ」
クララは胸をときめかせました
「どうぞ楽しんで行ってください」
王子はそういうとクララの笑顔でクララの顔を覗き込みました。
そして、バルコニーに上がり中庭を指さすと、お菓子の精たちの舞踏会が始まりました。
●お茶/中国の踊り
ようこそ この国へ お菓子の国へ 素敵な国へ
どうぞ 楽しんで 世界のお菓子 不思議なお菓子
まずはお茶を一杯 温かいお茶 香りの良いお茶
憩いの時間を 温かいお茶 甘味のあるお茶
ようこそ この国へ お菓子の国へ 素敵な国へ
どうぞ 楽しんで 世界のお菓子 不思議なお菓子
世界のお菓子 不思議なお菓子 不思議なお菓子 不思議な 不思議な 国
●コーヒー/アラビアの踊り
魅惑の 甘さよ
神秘の 香りよ
アラビアの 山奥で 鳥が 見つけた
不思議な 夢を見る 小さな 赤い実(心乱れ さ迷う)
秘密の 果実よ
忘れぬ 香りよ
砂漠の 旅人は 故郷を 忘れて
愛する 二人は 闇路を 旅した
魅惑の 甘さよ
神秘の 香りよ
それから 旅人は 探し 歩いた
不思議な 夢を見る 小さな 赤い実
忘(れ)られぬ
忘(れ)られぬ
赤い実
神秘の
●トレパック/ロシアの踊り
ねじり棒のお菓子、くるくる麦飴のお菓子
大きく伸びをして くるりと回れば
世界も変わるよ 気持ちも晴れるよ
両手を腰に当て 身体(からだ)を捻れば
気分も変わるよ みんなも笑顔に
大きく手を広げ 手拍子を打てば
リズムも変わるよ 心も弾むよ
両手を胸で組み その場で跳ねれば
空気も変わるよ 歴史も未来に
くるくるくるくる 大麦の飴 大地を回れ
くるくるくるくる 大麦の飴 大地を跳ねろ
いざ いざ とべ とべ とべとべとべとべ
大きく伸びをして くるりと回れば
世界も変わるよ 気持ちも晴れるよ
両手を腰に当て 身体(からだ)を捻れば
気分も変わるよ みんなも笑顔で 笑顔で 笑顔で 楽しく 食べよう
笑顔で笑顔で 楽しく 踊ろう
くるくる くるくる くるくる ラララ
●葦笛/フランスの踊り
ほらほらこちらへきて 一緒にタルトを焼きましょう
たのしいとき ゆかいなとき 笑顔でタルトを食べましょう
ほらほらこちらへきて アーモンドが薫ります
さくさくして ふかふかして 楽しいお菓子が出来上がルルルル
ルルルル ルルルル ルルルル ルルルル
(とーても おいしいの はやくたべましょ)
ほらほらあちらにいって 一緒にお菓子を作りましょう
うれしいとき いこいのとき おしゃべりしながらたべましょう
ほらほらあちらをみて こんがりお菓子が歌います
つやつやして ほくほくして ま 素敵な お菓子の 出来上がり
ほらほらこちらへきて 一緒にタルトを焼きましょう
たのしいとき ゆかいなとき 笑顔でタルトをたべましょう
ほらほらこちらへきて アーモンドが薫ります
さくさくして ふかふかして ま、楽しく 美味しく 出来上がり
●10 金平糖の精の踊り
しずかに みみ すまし ひとみ とじて ささやけば
きこえて くる とおい ゆめの くにの ぶとうかい
てをとり くち づけを ゆきの まどべ うすあかり
いつまで つづくの ふしぎな ものがたり
ほほよせ みつ めるの ほしの ような そのひとみ
とけいの はり とまり とびら ひらき はじまるの
てをくみ むね はずみ こころ ふるえ おどりだす
わたしの ひみつの ふしぎな ぶとうかい
「さあ、花のワルツです、この宮殿の庭で咲いている全ての花の精たちが踊るのですよ、そしてお菓子の妖精たちも、兵隊や女官たちもみんなで踊るのです」
王子は言いました
「さあ、私たちも一緒に」
●花のワルツ
夢のように 輝く舞台で
私は歌いたい 煌めく光浴び
魔法の時を超える 空の雲を追い(かけながら)
心はずんで 夢は広がるの
私は踊りたい ときめくこの胸で
魔法の扉開く 愛の言葉いつも唱えて
(世界中の) 人が集い 笑顔溢れ 命震え ワルツのリズム
いつも 見るの 愛の夢を 蕾ひらき 溢れ出す
夢のように 輝く舞台で
私は歌いたい 眩しい光受け
秘密の時を超える 天使たちを追い(かけながら)
心はずんで 夢は広がるの
私は踊りたい 震える胸抑え
秘密の扉開く 愛の言葉いつも抱いて
(世界中の) 人が集い 笑顔弾け 命響く ワルツのリズム
いつも 聴くの 愛の歌を 花びら舞い 踊りだす
夢見る、私は いつも 願うのよ
あなたと 二人で 手を取り歌うの
あなたは 私の ひとみ 見つめてる
私は あなたの 腕に抱(いだ)かれ
いつも いつまでも 二人で 見つめ合い 手を取って 胸寄せて 踊りたい
私は 踊ってる ワルツを あなたから 教わった ステップを刻んでる
それでも、私は いつも 分かってる
夢から 目覚めて 始まる人生のことも
夢のように 輝く舞台で
私は歌いたい 煌めく光浴び
魔法の時を越える 空の雲を追い(かけながら)
心はずんで 夢は広がるの
私は踊りたい ときめくこの胸で
魔法の扉開く 愛の言葉いつも唱えて
(世界中の) 人が集い 笑顔弾け 命響く ワルツのリズム
いつも 聴くの 愛の歌を 花びら舞い 踊りだす
夢のように 光輝いて
私は歌いたい 心に残る歌
私は踊りたい この胸弾ませて
ララララ・・・・・
いま 世界が動き始めてる
この ワルツのステップに合わせ
日差しが 満ち溢れ
花びら 舞い踊る
命が燃え
ララ、ララ、ララ
世界が 声をあげ
二人に 微笑むの
二人は
ララ、ララ、ララ
いつでも いつまでも
愛のワルツ踊ってるの
夢の世界でララ、ラ
気が付くと、クララと王子は手を取り踊っていました。
上手に踊ったクララを抱き寄せた王子はその手を取り、小さな冠を手渡すと頭の上にかぶせてくれました。
その光景に周囲にいたお菓子の精たちは一斉に拍手をしました。
「これは感謝の気持ち、とても綺麗ですよ」
王子はそう言うとクララの手を取り再び宮殿のバルコニーへと上がっていきました。
クララはまるでお姫様になった気分でした。そして、このまま王子の妃としてこのお城に住むことになったらどんなに良いだろうと、考えていました。自分が少し大人になった気分にもなっていたのです。
しかし、その時です。クララは同時に見覚えのある年配の男の人の姿を見つけました。
ドロッセルマイヤーおじさんです。
「ドロッセルマイヤーさん、どうしてこんなところに?」
クララが聞くとドロッセルマイヤーは答えました。
「私はこの堅いくるみの呪いが解けるために、あちこちの時計修理をしながら走り回っていたのです。そして、ひょっとするとクララさんの気持ちのやさしさが、この呪いを解く鍵もしれないと思って見守っていたのですよ」
「そうだったの。時計修理の不思議なおじさんと思っていたのに」
クララは言いました。
「いやいや、私は実は時間の秘密を知っているのでね。時のあちらこちらへ自由に行き来出来るんですよ」
ドロッセルマイヤーは、魔法使いのような不思議な笑い声を交えながら、少し得意気に言いました。そして続けました。
「ところで、クララさん、きっと嬉しい気持ちで胸がいっぱいになっているのだと思うのですが、そろそろお別れの時間にしないといけないですよ」
「え?どうして、お別れなの?せっかく王子様とも出会えたのに」
「楽しい時間が長すぎると戻れなくなってしまいますからね」
クララは慌てて聞き返しました。
「ここに居てはだめなの?」
「クララさんには父さんも母さんもいるでしょう、やんちゃで良く喧嘩もするけれど弟のフリッツも寂しがることになりますよ。だから、そろそろ帰らないとね。ここは時間の進み方が違うお菓子の国、夢の国。クララさんは人間の世界に戻るべき人なのですから」
王子はそのやりとりを見守っていましたが、やがて丁寧にクララの前で跪きました。
「おっしゃる通りです。クララさんの家まで馬車に送らせますよ、でも、その前にもう一度二人で踊らせてください」
クララは少し頬が赤らむのを感じました。
●クララと王子のパドゥドゥ
遥かの空から 届く声 導かれ
あなたを探して 雪灯り 追いかけて
夢にみた時間
いつまで続くの
二人だけのとき
仰ぎ見る空の 降る星に 見守られ
あなたの手を取り この気持ち 届け
せかいのはてまで
愛に導かれ
遥かの空から
愛の歌声が
聞こえるの 愛の歌
降り注ぐ 愛の声
聞こえるの 愛の歌
王子はクララを抱き寄せダンスをしながら言いました。
「クララさん、あなたの心のやさしさに惹かれ、あなたにはこのお城で私の妃として暮らして欲しいと思っていたところでした。でも、確かに引き留めるわけには参りません」
王子はまっすぐな目をしていました。
「クララさんの世界とこの夢の世界とは繋がっているのです。いつか私はクララさんのいる人間の世界に行って、あなたを迎えに行くでしょう。その時、改めてこの手を取らせてください。あなたが立派な大人になった頃に」
クララは、王子に瞳を見つめると大きく頷きました。
●別れのメロディ
~チャイコフスキー「懐かしい地の思い出/メロディ」
雪降る夜更けに
木々は皆眠る
憧れの人よ
いつまでも傍(そば)に
窓辺のともしび
静かに揺らめく
夢に見た人よ
胸の中に
わたしは しりたいの
ひみつの とびらひらき
あなたを あいしたい
とけいが うごきだすまでに(てをとり)
わたしは たびをする
まほうの もりをこえ
あなたを みつめたい
せかいが もとにもどるまえに(いのちをかけて)
あいのうたを
うたいたい
あいのことば
ききたいの
いつのひか
いつのひか
いつのひか
まっている
いつまでも
ゆめをみて
こいをして
懐かしの地へと(なつかしき 日)
馬車は走り出す(思い出の)
振り返る私(あのときの)
遠ざかる灯り(ほほえみを)
手を振るあなたを
私は見つめる
いつまでも
ほおを熱く濡らし 涙を
あなたは
わたしの
ゆめの
なかで
口づけを
そっとささやいて
しずかに微笑み
つのひか
いつのひにか
あいのことば
あいのくちづけ
いつのひか
いつのひにか
むかえにきて
気が付くと卵の黄身のような満月が出ていました。
月明かりに照らされたお城の前には、2頭立ての馬車が用意されていました。
辺りには白い粉雪が静かに舞っています。
クララを乗せた馬車は雪道をゆっくりと出発しました。
クララは振り返りました。そして手を振りました。王子も力いっぱい手を振ってくれています。ずっとずっといつまでも。
しかし、やがて王子の姿は、雪の向こう側に消えていきました。粉雪は満月に照らされ、まるで星屑を散りばめたように輝いていたのでした。
作曲:千原英喜 2022