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 小学校の研究集会に参加し

07−02 2007.2.3

先日、某小学校において開催された研究集会に参加してきました。
国や市から推進事業指定を受けている「コミュニティスクール(地域で子供を育てていくという 発想)」と「食育」に関する成果報告を中心にした集会でもあり、実は昨年に続いて参加させて いただいています。

私のように大学で「いかに人を育てるか」ということに関与する業務をしておりますと、小学校の 校内は実はアイデアの宝庫でもあります。独自にいくつかの小学校を訪問させてもらって大学生 のためのプログラムの参考にしておりますが、恐らく高大連携や小中連携、中高一貫というよう な観点は「教育内容の連続性」ということで最近注目されているものの「小大連携」がそれにも 増して高い効果を生み出すということにはまだそれほど着目されていないような気がします。

私の業務下においては少し前から大学生を対象に、映画や音楽鑑賞会だけではなく、「無人島キ ャンプ」や「川遊び」を企画したり、各種の文化体験プログラムや、身体表現のワークショップや、 グループワーク的な手法を取り入れたコミュニケーションゲームのようなものまでを行なってきて おります。ひと昔前ならば、なぜ大学生にもなってこんなことをしなければならないのか?という ことで反対の意見があったり、面白い例として紹介されてきましたが、今日では幅広い人間教育に 主眼をおく私立大学の多くが何らかの形で同様の課外プログラムを実施しはじめております。それ は別記(大学生について)したように、遊び心のほかに、現在の大 学生の成長過程には人間関係要因が薄く、社会に出る前にもう少し(体験を通して)社会性や人間 性をトレーニングする機会を与えてみようという判断でもあった訳ですが、実は昨年からそこに 「小学生」という要素を加えてみたところなかなかの効果が発揮されたのでした。私は実はこの取 り合わせこそ地域社会の構造を変えていくキーポイントになるのかも知れないと思っています。

別記しているように、大学生はもう一人前と思われがちですが、現状は必ずしもそういう状況では なく、大学生の時代にどんな体験を重ねていくかということが一人前になるため重要でもあるのです。
異世代間との交流の乏しい大学生には子供に関わる経験値を持たせることで、「頼られる責任感と 喜び」を実感してもらうことになる訳ですが、このことほど大学生を人間として成長させるものは ないと思います。一方、小学生の子供にとっては元気の良い遊び相手というだけではなく、将来の 理想像(憧れ)として自分を重ねられる(権威的ではない年長者の存在)のではないでしょうか?

小学校と大学の両方の現場を見て感じる共通の課題は「人間として何を学ぶ必要があるのか」とい う根本的なことです。
決して集中力と克己心に特化されることや受験のテクニックという不毛なものではないはずです。 思いやりや気遣い、適切な言葉を選択して議論していくスキル、意見を調整してまとめていくリー ダーシップ、責任感、論理的にものごとを考えていく方法、役割や場面や立場の違いを感じていく 力、自己の意見を堂々と述べる訓練、協調性、…教育というものを一貫して考えた時、教科や年代 という枠を超えて、更なる研究をしていくにも、社会的生活をしていくにも重要な基本的資質を磨 いていくことの必要性にも気づかねばならないはずです。

また、例えば小学校において「食育」というジャンルが重要視されているということは何を物語っ ているのかと考える必要があると思います。考えてみれば、大人たちは学習というほどではないにし ても、家庭生活や田舎の祖父母や地域の中から学んできたがたくさんあったと思います。わざわざ 「食育」などという授業がなくっても、食卓を取り巻く豊富な話題や生活の実感の中から、知識も 知恵も、それに伴う文化も歴史も人々の思いも伝えられてきたのだと思います。しかしながら状況 が変わり、それを学校教育の中で担っていく必要があるという考え方なのでしょう。これは、大学 生を川遊びに連れて行くという大学の発想と同じことだと言えるのではないでしょうか?

もちろん、「遊び」や「生活」が持っていた家庭教育、社会教育部分をどこまで学校教育で行なう のか、もしくはどのように地域コミュニティを再生していくのか…、という議論がなされなくては いけないのではないでしょう。やがて社会の中で協働していくべき子供や後輩たちのために「何を 学ぶべきか」「何を伝え残していくのか」ということは、「小中高大」の立場を超えて責任を持って よく議論されないといけないことだなあと思いました。

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