2019年11月~TFM合唱団 演奏会
「アポロンの竪琴」に寄せる
ふと思います。
私たちは時間の中にいるのでしょうか?私たちの中に時間があるのでしょうか?
私たちは海の中にいるのでしょうか?私たちの中に海があるのでしょうか?
いや、時々考えます。
私たちは言葉の中にいるのでしょうか?私たちの中に言葉があるのでしょうか?
…目を開けて見上げた満月が、目を閉じても心の中にくっきりと存在するように…、耳を澄まして聞いた歌声が、後になってもしっかりと心の中に残っているように、私たちと世界とはお互い呼吸し合い、包み包まれながら存在しているに違いないですね。
合唱とは、音楽ジャンルの中では「言葉」を持つ芸術です。そこには「音楽」とは別の生理を持つ「言葉」が表裏一体のように寄り添いながらも、背反と連帯を反復して存在しているということになります。つまり、言葉と音楽は示し合わせた裏切りの周到さと不意な一致を繰り返しながら「滲み」や「傷痕」や「ずれ」のようなものを含めた曖昧な味わいを作り出すものだと思います。
さて、「アポロンの竪琴」は私が戯れに詩を書いていることを聞きつけられた千原英喜先生から声を掛けられ、とてもロマンチックな音楽にしていただいたものです。言葉の深淵や表層から巧みに組み立てられた素晴らしい音楽宇宙に触発されて、今回はさらに挿入詩などを加えてみました。言葉から歌へ、歌からまた別の言葉へ…。そんな感じでしょうか。そしてそれらはまた別の感性をもった歌い手たちにより、多様な味わいを持って歌われます。 言葉と音楽の豊かな関係、その不思議さ、手触り、肌触りの伝わる演奏になればと思います。
2021年10月~TFM合唱団 演奏会
「はじめての言葉が」に寄せる
2023年11月~TFM合唱団 演奏会
演奏会に寄せる
TFMとの付き合いも数年の年月を数えます。その間コロナの影響による活動制限を受けながらも何とか活動が持続し、地元に根を張りしっかりと歌を歌い続ける姿を見るにつけ嬉しく思っています。昨今では、気の合う仲間たちが集まった同世代でのアンサンブルが主流となる中、様々な世代や様々なバックグラウンドを持った人が集まり、一つのコミュニティを作っているということは、大きな意義と価値があると思います。合唱とは個人の思いが一つに纏まってしまうもののではなく、大きな総体として表現されるべきものでもあると感じます。そういう意味では他世代が表現を織りなしていくプロセスで生じる、様々な色合いや奥行きのようなものがこの合唱団の魅力の一つにもなっているのだと思います。
本年は、1つのステージを指揮させてもらうことになりました。本日も一生懸命の気持ちが実を結び、秋のみのりのような音楽がもたらされる演奏会になりますように
2023年11月~TFM合唱団 演奏会
「友よ、君の歌を」に寄せる
京都にある「同志社コールフリューゲル」という大学合唱団の50周年記念のために作られた合唱作品です。千原英喜先生は作曲の際に、今までの合唱曲の「何にも似てないものを」作りたい、とおっしゃっていたことを思い出します。
アカデミズムの世界からは随分遠くに旅していますが、確かに「どんな合唱曲にも似ていない」しかし、「なんだか懐かしい気もしたり、どこかで聞いた気もする音楽」、そして、「何よりふと口ずさんでみたくなる楽しい合唱作品集」です。
レトロな青春歌謡…、明日の扉を開くような希望の歌…、陽気なメキシカンサウンド…、おしゃれなパリのカフェのような風景…、古代南米のシャーマンを彷彿とさせるような厳かで賑やかな歌…、時間軸や空間軸を自由自在に飛び交い、歌詞内容についての意味合いすらも軽く飛び越え、乗りこなしたような不思議な曲集です。
考えてみれば、私たちの人生そのものも決して一つの一貫した考えや指針だけに貫かれているものではなく、日々いろんなことを思い、いろんなものを食べ、いろんなことを語り、いろんなところで出向き、旅をし、気分転換を繰り返したり様々なことを感じながら過ごしているはずです。
心の赴くままにイメージを描き、気ままに楽しく歌を歌う…、そんな感じの楽しいステージが作れたらと思っています。