クリスマスツリー ~「合唱団:葡萄の樹」第14回演奏会~
2013.1.12
幼い幼い頃、寝室の隣は父親の仕事部屋でした。
寝る前には、父親に飛びつき、少し伸びた髭でほっぺたをちくちくされて大騒ぎをするという儀式をしてから寝室に入ったものでした。私は兄と一緒に寝ても真っ暗闇が怖く、オレンジの薄い照明を残しておいてもらうことに加えて、その仕事部屋との襖をほんの少しだけ開けておいてもらうのが眠りにつく必須条件でした。隣の部屋から漏れる一筋の明りと、原稿用紙にペンを走らせるような音と、さらに念の入ったことに父親自身が吹き 込んでくれた昔話の朗読のオープンリールがないと、私はなかなか眠れませんでした。暗闇の平気な兄が悪戯心から襖をしめたり、電気を真っ暗に落とそうものならば、私は本気で泣き喚いたものです。もう40年も前のことでしょうか?
クリスマスが近づくと母や兄と一緒に飾りつけをして、灯りをともすことが楽しみでした。
クリスマスツリーには目を閉じていても明りの気配があり、薄目を開けても色とりどりの明りが私を見守ってくれているような気がして安心したも のです。
葡萄の樹の14回目の演奏会には、松本望さんが素晴らしい曲を書いてくださいました。
「木々のスケッチ」は相変わらず、テキストの関連や、組曲としての構成が意識された大変すばらしい合唱組曲ですが、中でも美しいメロディーで歌われる終曲のクリスマスツリーは、この時期が「人が人に対して思いを馳せる」「想像力によって世界に思いを馳せる」時期であることを思い出させてくれました。
クリスマスツリーのいろとりどりの灯りが、私の人生に関わる数多くの人々のまなざしであるように感じました。打ち上げの場面で、メンバーでクリスマスツリーを歌いながら望さんをお送りしましたが、望さんの表情がこれまでになく柔和な感じにもなり、歌の力と歌の役割を感じた一瞬でした。
(合唱団:葡萄の樹第14回演奏会パンフ→ 「木の音、昨日の音、ノートブック~木の記憶」 )