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大学男声合唱団の現状と展望・・・(1/5)

■はじめに
大学時代の男声合唱の「熱さ」に痺れ、そのまま合唱指揮を続けてい る私にとって、大学男声合唱団の現状と展望については、痛切な願い や思いのようなものが色濃く滲みます。思いの強さが、ときに過剰な もどかしさや苛立ちや嘆きに繋がったりすることもありますが、その 点については大学男声合唱の先輩諸氏も同様でしょう。しかしながら、 私の場合は、合唱指揮者であるより先に大学生の身近にいる大学職員 でもあり、中でも10年間において学生部(学生支援センターと改称) で、学生の自治活動の低速化とクラブ・サークル活動や学生気質の変 化というものに着目しながら業務してきたこともあり、そういった観 点も導入しながら、私なりの現状分析と今後の展開について述べてみ たいと考えております。

■大学合唱団の現状と問題点
先に申し上げますと、大学の男声合唱団の現状は皆さんの感じておられ るイメージの通り、非常に厳しいものであることは間違いがありません。 しかし、そもそも、なぜ「大学の男声合唱」なのでしょうか?
日本の近代化プロセスの中で、大学や大学生が文化やスポーツの普及に 果たした影響は大きく、大学という場がエリート教育機関であり、圧倒 的に男性比率が高かった時代に、西洋音楽を体現する場として必然的に 「男声合唱団」が結成され、その後合唱界でリーダーシップをとっていっ たことが大きな意味を持っているように思います。合唱界のリーダーには 男声合唱出身の人が多いと思いますが、現在は文科系学部の男女の進学率 が接近し、「男声合唱」である必然性が減っていった結果、いくかの名門 男声合唱団についても人員の減少や脆弱化が見られ、場合によっては休部 の危機に瀕しているのが現状なのでしょう。
確かに私自身の大学時代でも、所謂「東西四連(早稲田グリー、慶應ワグ ネル、同志社グリー、関学グリー)」が大阪のフェスティバルホール(約 3000人のキャパ)で昼夜二回公演で立ち見を出していたわけですから、 先般の四連をそれと比べてみると単純に集客が4分の1から5分の1に落 ち込んでいます。東京六連については維持されていますが、関西六連にい たっては演奏会自体が行なわれなくなりました。

周辺要素としてですが、例えば女声合唱はどうでしょうか?。戦後の大学 合唱はともかく、大学紛争以降の70年代後半から90年代前半までの男 声合唱の中興を支えていたのは女声合唱団ではないでしょうか?20年前 の関西六連にはそれぞれ応援女子大コーラス部というのが決まっていて、 演奏会のファン層として盛り上げてくれていただけではなく、多数のカップ ルが誕生していたはずですから、男声合唱を女子大コーラス部が支える? 構造というものが実態として存在していたはずです。女子大そのものの解体 とともに、多くの女子大コーラス部の存在が消えていることも男声合唱衰退 の一つのファクターでありましょう。

では、混声合唱はどうなのでしょうか?大阪府合唱連盟のデータによると 大阪府合唱祭における大学合唱人口は20年前よりぐっと落ち込んでいます。 現在でも大規模合唱団は上手く存続していますが、中規模クラスの混声合唱 団が軒並み壊滅しています。(ちなみに大学生人口は増加しているはずです)

ただ、我々世代の大学とは全く異なった現状を把握しないまま学生の諸活動 について報告を受けたり関与しようとすると、結局苛立ったり嘆いたりして 「一体どうなっているんだ、今の大学生は!」という言葉を吐いて終わるこ とにしかなりませんので、かつてとは異なる実態について、ある程度の前提 理解として、先に象徴的な実例を一つ挙げてみましょう。

続く・・・

          
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