大江健三郎、寒梅館に来る!
よどこんライナーノーツ(2004.05)より
さて、私自身がかつて文学好きであったことを自分でも忘れかけてきたくらい
に最近滅多に本を読みません。それでも、自分の職場のホール(寒梅館ハーディホ
ールと言います)のオープニングに誰を呼ぶべきかと考えた時、(実は、一瞬オノ
ヨーコさんを呼ぼうかとも思った…)、現存する最大の文学者である大江健三郎さ
んにアタックすることに躊躇はありませんでした。
全身全霊で思いを込めて書いた手紙に反応していただけて、先日の講演会開催の運
びとなりましたが、講演会の責任者として大江さんと直接お話することが出来たこ
とは私の人生でも特筆すべき幸福な出来事であったと思います。道中でかわした何
気ない言葉の数々は私を勇気付けるに十分なものでした。
1、 樹について
武満、ペルト、タルコフスキー、という…思わず私の大好きなものを持ち出したく
なるようなメタファーです。大江さんは樹が大好きと子供のように語ってられまし
た。私は樹を見上げる時の視線が好きです。私のもう一つの合唱団の名前「葡萄の
樹」のネーミングにはたいそう喜んでおられました。
2、 現在について
現在を肯定すること。もちろん後悔すべき過去も含めて。そして今生きているとい
うことは今に溶け込んだ未来を生きているということ。
3、 言葉を獲得することについて
武力での紛争解決はあり得ないという当たり前の論理に対して、では何を我々が磨
くべきなのかということを示唆されているように思いました。はじめに言葉ありき…、
言葉を使いこなし、平和を成し得る人に大江さんの小説で繰り返される「新しい人」
を重ねておられるように思いました。
ちなみに今年のNHKコンクールの課題曲は大江さんの詩による信長さんの作曲
です。大江さんは、毎晩家族でその歌を合唱されているそうです。
「私は、合唱する人は信用しているのです。合唱の人は人の声を聞こうとするでしょ
う。人の言うことに耳を傾けようとするでしょう…、だから合唱する人は好きなので
す。合唱の人は信用出来るって思うんです。」
私との会話の中でこぼれた上機嫌でのこの言葉、なるほどとも思えるので、皆さんに
も紹介しておきます。
…では、あと締め切りまで20分につき、今号はここまで。
|