「こうのとり、たちずさんで」テオ・アンゲロプロス(1991年/スイス=仏=伊=ギリシャ)
この欄の締め括りとして、タルコフスキー亡き後、現存する最も偉大な監督(もち
ろん私観)の新作を紹介させていただきたい。
「旅芸人の記録」を始めとし、アンゲロプロスの作品では必ず彷徨する人間が描か
れているが、今回の彷徨はまさに、あらゆる試みの挫折からくる疲労と決定的な痛
手を背負った残滓の旅であったと言えよう。信じるものもなく、静けさと寒さから
身を守るように・・、政治への挫折感や、コミュニケーション、血縁の繋がりから
の断続感をそれぞれ孤高の中に深く噛み締めた「内面の旅」が描かれている。そし
て、彷徨の行き着く末には、大きな河が命を分断するように横たわっているのだ。 地球が奏でる深い悲しみと、人々の幻滅と哀悼の気持ちが、緩やかなアコーデオン の音色の中に血のように滲んだ作品。…人類の彷徨への「挽歌」であった。 |
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雑誌「塔」掲載
・七人の侍 |