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(学生)指揮者を目指す方へ

=2つの指標=

…歌いたい何かがあるから「うた」が存在するのであり、理屈ではない何かがあるから 「音楽」は魅力的なのでしょう。指揮者として演奏会の舞台に立ち「音楽を作る」とい う役割を担う時、プロもアマも年齢も全く関係ありません。人それぞれに感受性がある 以上、その感受性や世界観を生かして「自分なりの表現」に向かっていきましょう。
演奏会は決して品評会ではなく「生きた音楽」が生成する場です。まず、表現したい何 かがある…と考えましょう。

…しかしながら、合唱団が組織である以上、それを実現するのにやみくもに突き進む訳 にはいきません。技術の獲得や仲間と一体となってものごとに取り組む姿勢、時間を効 率的に活用していく方法などを習得する必要があると言えます。

=学生合唱団の課題(ジレンマを感じながら)=

・学生を取り巻く環境の変化(授業の密度・就職活動…時間の共有化が難しい時代)
・活動の保守化(4年で代替わりしていく為に、前年度を踏襲していく活動に陥りがち)
・パート練習が多いこと(合唱はアンサンブルが主体であるべき)
・レパートリーの選び方(演奏会としてのコーディネート、団としてのビジョンに欠けがち)
・合唱以外の音楽への興味(合唱以外、音楽以外の芸術や様々な活動への興味)

→(小さないくつかの提案)
・短い練習で効率よく練習(学生指揮者の研究)
・キーボード等の環境の確保(音取りの責任はある程度個人にある)
・小アンサンブルの活用(2重唱、カルテット等の楽しみの再発見、練習への活用)
・いろんな演奏に興味を持ってみること(井の中のかわずにならない為の工夫)
・合唱団同士のネットワークの活用

=より良いアンサンブル・練習とは?〜整理しておきたい基本的な要素=

@メロディー
Aリズム
Bハーモニー
C理性(?)

D言葉の処理
E音楽の背景
F歌詞の背景

=演奏に際して=

◎ステージ上の歩き方からお辞儀の仕方まで、一連の動きをイメージしよう。
◎指揮台の上でひと息つき、肩の力を抜こう。
◎これから演奏する曲のイメージを団員と共有しよう。

◎一緒に歌うように振り始めよう(ブレスを吸う)。
◎ひざが曲がり過ぎないよう。背中が静かであること(緊張感)。
◎アフタクトがしっかり出るようにしよう

◎体全体で音楽を表現している実感を持とう。(難しい?)
◎聞かせどころは、よりゆっくりと。

=学生指揮者のための10箇条=

序論)ガッツと使命感は大切だが、それだけでは難しい。

―1 先生、先輩には積極的にアドバイスをしてもらおう!
―2 しっかり予定(スケジュール)を立てよう!
―3 目標を決めて部室の壁に貼ろう!
―4 合唱以外のいろんなことに興味を持とう!
―5 ものごとには柔軟に対応しよう!
―6 頭でっかちにならない!
―7 原点を忘れないでおこう!
―8 自分で考えて自分で工夫しよう!
―9 努力を怠らない、失敗は恐れない!
―10普段の生活の中にヒントを見つけよう!

…特に最後のI番については、何気ないことですが、大事にしていただきたいと思います。
人間がどんなにがんばっても一人で生きていけないのと同様に「合唱」もまた一人では出 来ないもの…と考えると「人生」や「生活」と「合唱」はあまりにも繋がりの深いもので す。二人以上の声があって合唱は始めて成立し、お互いに声を出し、お互いに声を聞きあ ってやっとハーモニーは輝きます。大袈裟なことではなく「合唱」も「社会」も「人の生 き方」も共通する部分は多いように思います。合唱団の運営やリーダーシップの取り方は どんな組織にも当てはまることでしょうし、音楽や合唱活動は決して音楽室の理論の中だ けのものではなく、生活や人生を生き生きとさせる「生き物」だと理解してください。合 唱団への指示や接し方については意外にも「普段の生活」や「生き方」「考え方」の手が かりと結びつくものが多いということに気づいていただけると思います。
合唱をすることによって、指揮をすることによって、結果的に自分の中の「世界」や「 考え方」の幅が大きく広がっていくとしたら、それはとても素敵なことだと思います。

<学生指揮者として、とりあえずこんなことを心がけてみよう?!〜実践編〜>

●楽譜をよく見る。

・まず、楽譜を図面として眺めてみましょう。
 →横の音楽か、縦の音楽か?(ポリフォニーかホモフォニーかなど、曲の特徴を掴む)
 →上昇音階、下降音階がどのように配置されているか?(曲の盛り上がりなどを想像する)
・曲の背景の確認。(作曲家の活動した時代や国などを調べ、基本的な演奏様式を把握する)
・いくつの段落からなっているか?(全体を構成するための大きな段落を確認し、整理してみる)
・テンポのチェック。
・音量記号がどのように変化しているか。
・表情記号がどのように記載されているか。
・練習上、難しいところはどこか?を探す
 →ユニゾンとハーモニーの分かれ目や、和音の決めどころ
 →特に高い音、特に低い音、取りにくい音

●発声を整え、どういう声を使うかのイメージを持つ

…まず、練習の最初は準備運動としての「発声練習」からだとは思いますが、各団によって、あ るいは人数や目指す音楽等によって異なってくる具体的なメソッドについてはともかく、心がけ たいこととしては、「課題を持って発声練習をする」ということでしょう。これはとても大事な ことであると同時に、実際にはなかなか難しいことだと思います。単なる声出しの退屈な時間に 終わらせないよう心がけたいものです。発声のメソッドにはいろいろなバリエーションや考え方 がありますが、合唱をする際には次の要件を押さえておきましょう。

・息と体の使い方を理解すること(ブレスと声の関係)
・胸声と頭声との違いを認識すること
・聞きあって響きを揃えていくという雰囲気を作ること

@ メロディーを上手に歌うということ?

さて、我々が目指す音楽は、豊かな「感情表現を伴った演奏」であることは間違いの ないところだと思いますが、問題はその「思い入れ」をどうやって具体的な表現に結 び付けるかということでしょう。上手に歌おう(歌わせよう)とする時、ついつい、 メロディーを何度も歌わせて「もっと気持ちを込めて」と言ってしまいがちですが、 (もちろんこの指示は間違いではありませんが)、メロディーという非常に曖昧な要 素は実はもっと基本的ないくつかの要素に支えられているとも言えます。つまり、練 習に際しては音型(音程の高低=メロディー)が、リズムや言葉の意味やイントネー ション、あるいは音量やテンポにどのように関連し支えられているかという点に着目 せねばなりません。

例えば、上昇音階は自然に気持ちを高揚させますし、下降音階は自然に気持ちを落ち 着かせるという言い方が出来るでしょう。上昇音階では自然に「音量」を増やしてい くことや「緊張感」を持って音楽を前に進めていく要素が伴うことが多いと思います し、逆に下降の音型は「ゆったり」と歌い収める…という要素を伴うことが多いでし ょう。曲によっては、言葉の「イントネーション」と密接に関係していたりもします ので、メロディーというのは一番先に耳につきながら、実はそこに隠された幾つかの 要素を明らかにしていくことによって、初めて磨かれるものであるとも考えられます。 何となく上手く歌えていないという時は、逆に以下の要素の解明に当たることが重要 なのかもしれません。

Aリズムを感じる

音楽が形にならない、練習が停滞してると感じる時、たいていは「リズム」の処理に 問題があるようにも思います。
そんな時は下記の確認をしてみましょう。

 ・「何拍子」の音楽をしているのか?(強拍と弱拍の区別)

弱拍なのに強く歌っていたり、長く伸ばす音でリズムが失われていたりすることがあります。
特に同じ長さの音符が続く時は要注意です。4拍子の曲で4分音符が4つ続いていたとして も、実際には「強・弱・中強・弱」というリズムの上に乗っかっていなければなりません。 さらに良く楽譜を見ると、強い拍に言葉のアクセントが重なっていたり、弱い拍に語尾や接続 詞が重なっていたりすることがあります。「メロディー」を横に歌っていくことに気を取られ すぎて「リズム」を歌っていることに気づかないと、演奏全体が「生気」のない、重苦しいも のになります。
心臓を押さえてみて下さい。音楽のリズムの源はこの「鼓動」ではないでしょうか?
リズムは音楽にとっての「生命」そのものとも言えるでしょう。

Bハーモニーを決める

ハーモニーはある意味では「合唱」の魅力の真髄とも言えるものでしょう。
そのハーモニーを決める為に練習ではよく「音程」を直すという作業をします。「下振り」 指揮者としての要素もある学生指揮者にとっては、音を聞き分けハーモニーを決めるという 作業は重要でしょう。しかし、その為に必要なのは決して「絶対音感」的な要素ではなく、 合唱における「耳」を養うことでしょう。音が下がるかどうかということは、発声や体調、 集中力の問題であることが多く、単純なものではないのでしょうが、学指揮としては構造的 な問題について理解し、整理しておく必要があるでしょう。
まず、気を付けたいのは「フレーズの終わりの音程」でしょう。
歌い収めの下降音型では「息がなくなる」可能性や「集中力が欠ける」可能性を孕んでいる ことを事前に想像しながら練習をするべきでしょう。また、全ての音について音程の配慮を するというよりも、音域的な条件や持続音などに注目し、音程が崩れそうな箇所を事前にチ ェックするということも「耳」を養うことに直結していくでしょう。
あるいは、決まりにくいハーモニーは意外にも「パートバランス」が原因している場合が あります。
低く決まってしまう「ミ」を歌うパートの音程を直すより、「ド」を歌うパートの音量を安 定させることでハーモニーが安定するというようなことが有り得ます。この辺の修復技術を 含めてハーモニーを決めるための「耳」が必要と言えるでしょう。

○言葉の処理について

…さて、歌を歌うということは、たいていの場合何らかの「歌詞」を歌うということです。 言葉やイントネーションの問題は、そのため合唱練習において非常に重要になりますが、実 際のところ演奏に何かもの足りないものを感じる時、たいていは歌詞の処理が詰められない 点に問題があることが多いように思います。つまり、メロディーやハーモニーを中心にしが ちな合唱練習に、「リズム」と同様「言葉」という観点を注意深く導入することによって、 歌い手をより歌いやすく誘導することにつながるように思います。

●まず、日本語に関して考えてみましょう。

日本語のキーワードは「助詞」「語頭と語尾」の2点ではないかと思います。

  EX1)
  なのはなばたけにいりひうすれ
  みわたすやまのはかすみふかし

  EX2)
  菜の花畑に入日薄れ、
  見渡す山の端かすみ深し

二つの文章の例を見た時、当然後者のほうが内容を理解しやすいように、我々の話し言葉に も幾つかの自然なルールがあるはずです。例えば、日本語にはアクセント記号はありません が、我々は他人に話をする時に自然に「言葉の頭」を強く発音し「語尾は弱めて」いるはず です。また、「名詞や動詞」を強く、「助詞」(は・が・を・に・の)は弱く発音している はずです。相手に強くなにかを伝えたい時にはなおさらでしょう。(言葉を強調したい時は 言葉の音程が高くなっていたりしますね・・)もちろん単純には行きませんし、曲の意図やフ レーズによっても異なるのですが、言葉の頭をはっきりと出してニュアンスを込め、「助詞」 や「語尾」を柔らかく発音することで言葉全体が浮き立ってくる可能性があります。
(…また、意味や内容を考えながら、例えば「深く」は「ふかーく」、「遠い」は「とおー い」、「甘い」は「あまーい」という感じで歌うことによって詩の持つイメージや情感を伝 えやすくなります。「さびしい」「かなしい」などの子音、「ひたひた」「とぼとぼ」など 繰り返しの言葉など、どのように発音すれば伝わりやすいかを研究して下さい。そして何よ り、どんな表情で歌うのかということが、「何かを伝える」際には重要でしょう。特に日本 語を歌う時、合唱人はイコール演劇人にならなくてはならないことも理解してください。…)
P.S(…日本語の楽譜はたいていの場合、音符に対して「ひらがな」標記がなされていること になるのですが、例えば合唱団の人たちに楽譜の余白に漢字を交えた歌詞を書き込むことを指 示してみて下さい。「歌詞」「日本語」に対する意識を高めるきっかけにはなると思います)

●次に外国語です。

外国人が母国語以外の言葉を歌うより、日本人が外国語を歌う機会の方が遥かに沢山あって、 また厄介だとも言えるでしょう。もちろん、フィン語やマジャール語のように言語体系上のカ テゴリーが意外にも日本語に近い言語もあるわけですが、何と言っても外国語を歌う際には次 の要素に気を配りましょう。

◆外国語には「アクセント」があるということ。
◆「2重母音」があるということ。open,over,Angel
◆5つしかないと理解しがちな母音の種類を倍以上に増やす必要があること。
  (暗い目のA、深い目のUなど)
◆母音には「長母音」「短母音」の区別があること。

読み慣れない言葉など、ついつい楽譜にカタカナを振ってしまうことがありますが、カタカナ表 記から理解をしてしまうと逆に外国語の表情が失われてしまう可能性があるので要注意です。 (フィン語、マジャール語などは慣れるためには有効な場合がありますが、ドイツ語などはマイ ナス要素が多いです)それに、意外にも難しいのが英語の歌で、中学時代にあれほど習ったにも 関わらず、ついついイントネーションなどには無頓着なまま平気で「オーバーザレインボー」な どと叫んでしまう場面があります。もちろん外国語で「歌う」ことは容易なことではないのです が、上記の3点に徹底的に気を付けていただくとうんと「らしさ」に近づいていくとは思います。 またthやnなど、日本語ではあり得ない発音は「舌」の位置に非常に重要なヒントがあると思 います。いずれにしても、別の言語体系の歌を歌うのだという心構えとそれなりの工夫こそが重 要だと言えるでしょう。

P.S(リズムの時と同じように、同じ長さの音符が続く時の言葉の歌い方が重要です。表記上は 例え同じ長さであっても、言葉の強弱、長短を生かして歌わないと表情のない音楽になってしま います。)

○ その他、練習中で重要なこと

◆テンポの変わり目の指示がきっちり出来ているか。
…これは意外にも重要です。最初のテンポを設定することは指揮者の役割の最も大きな要素である とも言えますが、曲の中でテンポを換えていく時には、曲全体の構造を把握し緩急のテンポ配分を 念入りにシュミレーションすることが大切でしょう。もちろん、テンポとはあらかじめ定められる ものではありません。その日の合唱団の気分(のっているか、緊張しているか)、天候や雰囲気と いう環境の中でその瞬間ごとに決定されるものだと私は思っています。しかし、指揮者の技術とし て重要なことは、テンポを変えるきっかけになる音やフレーズや音階を探し、どこからどんなテン ポに変えるのかを団員に伝えられることだと思います。練習に際してもアフタクトを明確にし、新 しいテンポの入りを分かりやすく指示する必要があります。

◆説得力のある説明をすること。
…ただ単に「強く」とか「弱く」という指示を出すのではなく、どうして強く歌った方が良いのか という「理屈」や「裏付け」を説明して、団員を納得させることも時には必要でしょう。

◆出来るだけ具体的な指示を加えること。
…なかなか難しいことです。「ここんとこ、がーっと…」とか「ここ気合い入れて…」という感じ で指示を出してしまうことがあります。かく言う私も自分の合唱団で、「もっと塩っ辛い感じで… (意味不明)」とか「ここは葡萄の種を噛んでしまったという感じ…」というような指示をしては 団員に「またか・・」という顔をされてしまいます。もちろん、たまにはかえって「感性を刺激す るような」言葉が有効になる時があって(特に関西人相手だと)、それはそれで面白いのですが、 その部分はあくまでも個人の持ち味に帰するとして、学生指揮者が成長していく過程では出来るだ け「共通のボキャボラリー」の中で的確な言葉による指示を出せるように努力する必要があると思 います。

◆語彙を増やすこと
…上記のことと同義なのですが、同じことを意味していても、言い方を変えることで伝わりやすく なることがあります。マンネリを防ぐためにも、いろんな表現のし方、「例え」のだし方、をスト ックしておく必要があると思いますね。

◇ 「人前に立つ…」ということはそれだけでとてもプレッシャーのかかることだと思いますが、 練習前には十分に準備をし、「こういうふうにしたい」という強い意志を持って練習にのぞむこ とが大切だと思います。そして、出来るだけ多くの時間合唱団を歌わせること、と具体的な言葉 を使って何かしゃべる(指示を出す)こと、が肝要でしょう。まずは、自分のリズムを作ってい くことからです。がんばりましょう!

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