大学男声合唱団の現状と展望・・・(2/5)
<大学生組織の問題:社会的側面>
私の勤務している大学では、大学の公認クラブには毎年会計報告書を提出
させていますが、文化系の公認団体でまともな「会計報告書」が提出される
例は実は一割にも達していません。事務局で預かっている去年の期末の繰越
金と今年の期首の金額が合わないことなど簡単に頻発しますが、そのことを
指摘しても意外にもポカンとされるのがオチです。もちろん能力の問題では
ありません。先輩から後輩への引継ぎの問題が大半、そして当事者意識、自
発性を含めた組織力の問題とも言えるものなのです。ですから大学では「会
計報告の作成講習会」というものを毎年開催して、公認団体の会計担当者を
集め、「公認団体として、部費徴収等をしたならば、どのように使ったかと
いうことを部員にきっちりと説明しなくてはなりません。余ったら部員に返
却するのか、後輩のために繰り越すのかしっかりと記載しなくてはなりませ
ん・・・必ず後任の担当者に引き継ぐように」というようなことを分かりやすく
説明しています。「最近は学生だけでゼミコンパもまともに開けない」という
複数の教員の嘆きの声もありますが、確かに自発的組織を維持運営していく
ソーシャルスキル(ライフスキル)が弱いとも言えます。これらのことは、
合唱という以前にクラブ・サークルそのものの孕む問題が極端に顕在化して
いる例ではありますが、このような現状を誘発する大学環境、彼らが育って
きた環境に思いを馳せることが重要なのではないでしょうか。
<大学生の現状、大学生の育ってきた環境>
大学の現状をご存知でしょうか?かつての様相とは大きく異なります。
授業日数は増え、休講をすれば補習を必要とし、授業の多くは出席が重要と
なってきています。大学は、学生が図書館で勝手に勉強していて「試験とレ
ポート」だけで帳尻を合わすところではなく、大学の責務として大学生にど
ういった教育を付加し、社会に送り出すかということが問われていますから、
大学生にとっての自発性を伴う自由時間は旧年に比べて格段に減っていると
言えます。その上、授業のバリエーションは増えますから、6講時や7講時
の授業を取っているケースもあり、練習開始時間に人が集まっていません。
(・・・つまり集団でひとところに集まるクラブ・サークルは軒並み大きな痛
手を受けており、パーソナルな時間を使ってできること、アイデアを生かし
た企画グループや、数名の集まりで練習が可能なアカペラサークルへと人材
が流れているという現象も見逃せません・・・)就職活動の早期化や、キャンパ
スの多拠点化の問題、ダブルスクールの問題も、集団で集まって活動を行う
クラブ・サークルの活動密度に影響を与えております。
また、彼らの育ってきた環境にも思いを馳せるべきでしょうか?
大学生から「携帯電話がなかった頃は、お互いどのように連絡を取り合っ
てられたのですか?」と聞かれたことがあります。私が「家の電話にかけ
てたけど」と言うと、たいそうびっくりされたことがあります。「えー、
じゃあお母さんとか出てくるんですか?、緊張してかけられないなあ・・・」
と言われ、愕然としましたが、考えてみれば、ダイレクトなコンタクトだ
けで、それに付随する周辺の人間関係を伴わない彼らが、コミュニケーシ
ョンの取り結び方のトレーニングに乏しかったのは事実でしょう。現代の
大学生は「携帯メール」と「コンビニエンスストア」と「ワンルームマン
ション」との三種の神器?で、「一言も発しないで」一日を過ごすことが
出来る時代です。下宿があったり、風呂屋があったり、定食屋でご飯を食
べていた時代とも異なります。子供たちが遊ぶために集まって来ても無言
でテレビに向かいゲームをしている時代なのです。近所のガキ大将もいな
ければ怖いおじさんもおらず、異世代との交流も格段に少ない状態の中で
育ってきている彼らが、先輩後輩という立場性を上手く持ち込み、自発的
組織を形成していくことは実はなかなか難しいことになっている側面があ
ります。
さらに、例えば、オーケストラならばまだ個人レッスンや個人でのスキル
獲得にウェイトがあるわけでしょうが、大学合唱のように初心者が多く、
全員が集まり、人間的なつながりを取り持ちながら、「先輩から後輩への
献身によって時間をかけてスキル獲得していく」ようなスタイルのクラブ
・サークルには、非常に不向きな時代が来ているのだとも言えるでしょう。
学生同士の中で希薄化しているのは、縦のつながりと、連帯感とも言える
横のつながりです。そしてそのことからくる情報の減少が、学生を保守化
させ、活動を矮小化させます。しかしながら、このことは大学生のメンタ
ルや意欲の問題ではなく、彼らを取り巻く環境の問題であり、彼らが大学
生になるまでに身に付けていくべき問題について意識してこなかった社会
システム全体の問題ではないかと考えています。大人のサイドからも「自
分たちの大学時代と単純比較」して、すぐ嘆きの材料を見つけてしまうこ
とや「大学生になったら一人前」という頑な意識を転換し、「大学生は少
しのサポートやきっかけ作りを与えて成熟していくべき存在」であるとい
う認識に変わっていく必要もあるのではないかと考えています。
続く・・・
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