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 宇宙についてを前に

17−03 2018.1.14

合唱と言えば男声合唱しか知らず、知っていたとしても、「所詮、それは(付き合ったとか別れたとかばかり言っている) 混声合唱の狭い世界の話でしょう?」と、関心すら持たず、男声合唱こそ合唱の中の王道と考え、のめり込んでいた時代…、 一つ下のマネージャーが、「先輩、恐るべき曲を聞いてきました」と、楽譜まで(私のために)買ってきて語ってくれた 曲が「宇宙について」でした。
恐らく彼が聞いたのは、関西混声合唱連盟の合同演奏会で、田中信昭先生が指揮をした「宇宙について」だったのでしょう。 私は、熱心に話を聞きながらも、目の前の男声合唱の世界で私が挑まなければならない壮大な世界と向き合うのが精いっぱい で、彼がわざわざ買ってくれた楽譜を解読(まあ、出来なかったでしょうが)することもなく、本棚にしまっていました。

あれから30年が経過しました。
実は、その後ようやく混声合唱畑に入り、ヘ音記号のテノールに慣れないだけでなく、「気合と本気」以外のメソッドを何も 持たなかったので、随分苦労して回り道をしながら自分自身の練習のスタイル等を確立してきたわけですが、その中でずっと 気になっていた曲が、実はやはり「宇宙について」でした。
その後、たくさんの経験を経て、楽譜の読み方や、シアターピースや、舞台の使い方についての勘が養われてきてはいたので 「いつか取り上げる機会があればな…」と思っていました。幸い「淀川混声合唱団」が「京都大学音楽研究会ハイマート」 「神戸大学混声合唱団アポロン」と大規模なジョイントコンサートをすることになりましたので、ようやく「今ならこの曲に 向き合えるのかもしれない」と考えて、取り上げたのです。私が楽譜を開くのは30年ぶりということになります。当時のマ ネージャー、T君とはその後会えていませんが、どうしているでしょうか?
演奏会に寄せて、私はチラシに下記のようにメッセージを書きました。前段のようなことが、このメッセージの先にあり、下 記の数行が、私が30年間合唱指揮者として発見してきた気持ちということになります。


私たちは、「ひとりひとり」がうたって(=生きて)います。にも関わらず、個人では存在出来ず、互いにすれ違い、関係を結びながら「ともに」音楽(=時代)を織りなしているのです。20世紀の日本音楽界の巨人とも言うべき柴田南雄の残したメッセージはこのことなのかもしれません。私たちの中にある時間、私たちを取り巻く時間、私たちの中にある物語、私たちを取り巻く物語、「歌うことのトポロジー」が示すのは私たちの人生と世界との関係なのでしょう。・・・ 京都、大阪、神戸、様々な世代・・・、またとないこの出会いを持ち得たメンバーで、20世紀に聳え立つ合唱曲の金字塔にチャレンジしてみたいと思います。

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