JCDAユースクワイヤー~大阪・広島

2011.9.6

JCDA(日本合唱指揮者協会)関西支部主催の学生の年末合宿に ついてはすでに述べた通り(→2010年末学生指導者合宿 ~「原爆小景」について) ですが、その中から有志メンバーを結成して、大阪(いずみホール)広島 (エリザベート音大)で演奏を行なってきました。それと言うのも、昨年 末に「原爆小景~水ヲクダサイ」をテキストに岩田先生にシアターピース の講習をしてもらったのですが、せっかくの大曲「原爆小景」をシアター ピースのテキストとして学んだだけはもったいなく、この曲をその背景と ともにもっと深く知る機会を、そして、どこかで発表する機会を作りたい と考えたからです。

幸いにして日下部吉彦先生の紹介で、8月9日(長崎の原爆記念日)に 「いずみホール」で開催されているチャリティコンサート「グローバル ピースコンサート」の第一部で発表させてもらうことになり、その後、 広島を訪問し、原爆ドームや資料館を巡り、原爆投下地点のデルタ地域 を目の当たりにしてから、広島で演奏することとなりました。こちらは 広島の寺沢さん、縄さんらにお膳立てしてもらっての演奏会となりました。

全体の企画マネジメントは全て沼丸先生にお願いし、私が出来ない時間 帯の練習は西牧先生にお願いし(西牧先生には全行程お願いした)、私 は若干広島で講習会(演奏会と合同企画という位置づけでの)をしなが ら帯同する…という大人のチームワークも発揮した行程となりましたが、 私にとっても非常に思い出深い4日間となりました。

いずれも演奏したのは「原爆小景(全4曲)」の中から「水ヲクダサイ」 と「永遠のミドリ」の2曲のみですが、大阪公演前日には岩田先生にシ アターピース形式の練習を付けて貰いました。やはりそれは非常に効果 的でした。何度も言うことになりますが、最終的な振り付けがどうのこ うのということではなく、シアターピース形式で練習することは、楽曲 分析と表現を模索する(想像力を働かせる)ために非常に有効だと思う のです。言葉や音符の役割を考え、それに動きをつけていくことで、つ い歌い飛ばしてしまうような場面、あるいは一本調子の表現になってし まいそうな場面に、いろいろな視点や考え方を加えていくことが出来ます。 休符の意義や、音量の変化、音型の推移等にも意識が高くなり、JCD Aユースの演奏は非常に素晴らしいものになりました。大阪の「グロー バルピースコンサート」は、長原幸太さんのヴァイオリンや、関西を代 表するオペラ歌手のガラコンサートがメインでしたが、そういったプロ フェッショナルの音楽を聴きに足を運んだ人々(超満員でした)の前で、 学生たち(OBOGもいたが)が演奏させてもらい、大きな拍手をもらった ということには深い意義があったように思いました。

Peace monument genbaku-dome 2
で、ここで大阪メンバーが(OBOG中心に)若干外れ、そのまま広島 に行くメンバーと広島から参加するメンバーが加わるので、モチベーショ ンや一体感の観点から少し心配したのですが、広島での演奏がまた素晴ら しいものになりました。
翌日の14時に原爆ドーム(平和公園)近辺で集合した私たち(そこに は大阪演奏会を経験せず、広島演奏会からオンステしてくれるメンバーも) はじっくり平和資料館を見学するところからスタートいたしました。
ちょうど、昨年の同時期に「こどもコーラスフェスティバル」で広島に来 てましたが、八月の広島にはなんだか胸騒ぎのようなものを感じます。鹿 児島の知覧に行ったときもそうでしたが、悲惨な状況に加え、時間や空間 を超えて、たくさんの無念とたくさんの祈りとが混在しているような、そ ういった感情のざわめきに取り囲まれるような不思議な感覚に見舞われま す。見上げるとクスノキには青い実が実り、デルタ地帯には熱風に煽られ て海の潮の香りが漂ってきていました。

さて、一定の練習を終えた「原爆小景」ですが、(私は広島現地にて講 習会を担当したので、練習は当日のみ、西牧先生にお世話になりました) 思い切って「水ヲクダサイ」についてシアターピースをやめ、普通に演 奏してみました。
つまり、動きありき、ということで別の聞かれ方をしてしまうより、実直 に音楽表現することに努めてみようと思ったからです。逆に、より普遍性 を持ち得る「永遠のミドリ」については、教えてもらったことを下敷きに して動きをつけてみました。学生たちは、前日に原爆ドームを見て、資料 館で学び、実際に広島の平和公園付近を散策しています。音楽は自然に表 面上のことではなく、身体の奥から響くものに成長していたように感じま す。そして、非常に真面目に真剣に取り組んだ成果としての感動的な歌を 歌ってくれました。私を含めた戦争を知らない世代、ましてや広島から離 れて暮らしている我々、そして戦争から遠く離れた若い世代には、戦争の 悲惨や広島の方々の心情について「芯の部分では思い至らないところ」も たくさんあるのだと思います。しかしながら、出会った音楽を通して音楽 の背景にあるものを学ぶこと、想像すること…、現地に出向き、風や光の 中を歩いて呼吸をしながら感じたことを音楽にして表現すること…、その 両方には真面目に取り組めたようには思います。

いずれにしても、コンクールで僅かの優劣に一喜一憂するばかりが音楽の 役割ではないはず。参加してくれた学生たちは、音楽を通して得られるも の、音楽を通して伝えられるもの、の大きさを認識してくれたように思い ます。
私にとっても大きな貴重な体験となりました。
関係の方々、本当にありがとうございました。

P.s
さて、この話しにはまだ続きがありそうです。(3月末からポーランドへ!)