「森の伝説」~フィルムメモリーズ~
手塚実験アニメ連続上映報告(東京、大阪)

手塚治虫・宇井孝司(1988年/日)

先日、あまり世間の目に触れることのなかった手塚治虫の「実験アニメ」が連続上映された。アニメというと日本ではTV漫画と片付けられてしまいがちであるが、 ここで上映されたのは映画祭に出品された作品などで、キャラクターやストーリー性に拘らないアニメ本来の「動きの面白さ」を感じさせるものばかりであった。

「森の伝説」はチャイコフスキーの交響曲に合わせたファンタジーであるが、面白いのは内容に平行して世界のアニメーションの歴史がいっしょに描かれているということである。つまりぺらぺら漫画の動きから始まり、次第にそれが滑らかになっていく様子や、画風がフィリックス調になったりディズニー調になったり、 そのままアニメ史の発達と変遷のパロディーになっているのだ。また、機械や人間を画一的なTVアニメの手法で描き、森や妖精を生き生きとしたディズニー調 のフルアニメーションで描いているが、手塚は大量生産のTVアニメではなおざりにされている豊かな表情やニュアンスをアニメに取り戻そうとしたのではなかったろうか。…実写では表現出来ないアニメならではの面白さ…動物や植物のなまめかしい動き、妖精たちの繊細な表情・・それには生命の持つ優しさというも のを存分に感じた。

手塚にとってアニメとはまさにAnimateとしての生命だったのではないか。 形象をデフォルメさせ、リズムを与え、動かない絵に生命を吹き込むこと…、他の上映作品も同様、台詞のない短いフィルムであるのに「動く絵」の面白さと優しさは「世界の共通語」といわんばかりに印象深く心に刻まれたのだった。