「夢の涯てまでも」~映画の新たな時代へ~

ヴィム・ヴェンダース(1991年/日=豪=独=米=仏)

ヴェンダースの新作は、地球を巡り、心の領域までにも出掛けようとする究極のロードムービーであった。時代は1999年、地球が滅亡の危機を孕んだ近未来の世界。盲人に視力を与える装置で世界中の風景を集めながら逃亡していくトレヴァと 彼を追いかけるクレアの彷徨を描く。二人はトレヴァの盲目の母親に視覚を与えることに成功するが、やがてその装置を使って夢を映像化することまで試みてしまう、 という内容である。
しかし、夢とは、人間が漂いの果てに見出だす一つのやすらいだ世界であるべきではないのか。映画では「夢」を視覚化したクレアが極度の中毒症状にかかることになるが、「夢」までをも人間の理性で制御しようとする実験はその試み自体の愚か しさを見せ付けた形となった。まるで人類の歴史の中で盲目的な科学至上主義が環 境破壊と地球の崩壊に帰結してきているように…。また、装置のおかげで視覚を得ることが出来た母親も、そのうち世界の醜さに失望することになる。だが、考えてみれば、健全な視覚を持った多くの人間は知性を盲信し地球の荒廃を見過ごしてき たのではなかったか。有益なもの、形あるものばかりを追い求めていはしなかった か。クレアは「物語」によって再生し、21世紀の地球を見守ることになるが、 「心の中の世界」や「美しいもの」に対して本当の意味で目を開くこと、心の目を 向けること、…映画はそのことの重要性を語っていたとも言えるのである。ブルージーな音楽と地球の皮膚のようなオーストラリアの風景…現在最もその活躍が注目 される監督の最新作は新たな世界の幕開けを予感させてくれる作品であった。