再映「七人の侍」

黒澤明(1954年/日)

「七人の侍」が久しぶりのロードショーとなった。もう何年ぶりになるのであろうか。 「そうそう、この刀、この旗…」と思い出しながらも、いつの間にか映像にのまれ、 映像に釘付けにされていた。ぞくぞくする感覚に抱かれながら、改めて黒沢の凄さに圧倒されてしまっていたのである。
黒沢の造型力の特徴は映像のダイナミズムと観念的な様式美に収斂されると思う。泥、 馬、風、雨、慟哭・・、自然と野生に満ちた映像は、逆に、人間の配置やポーズ、建物の内装や道具などに向けられた様式美と共に音楽的なリズムを生み出している。そしてその「動」と「静」の緊張感が「野盗と武士(農民)の戦い」という単純なこのドラマ全体を覆うものとして画面に表出されているのである。
泥まみれの決戦シーンはもとより、侍を集める時の語り口、森で戯れる恋人を彩る「光と影」、木漏れ日の具合、馬の疾走や人間の動き、農村生活の息づかい、久蔵が戻 ってくる夜明けの霧・・、ストーリーとか社会性より遥かに重要な、「世界からどの様な瞬間を切り取るのか」という課題に対して、この作品は常に新鮮な映像で応えて いたように思う。「勝ったのは百姓たちだ」というヒューマニズムには、今となっては面映ゆささえも感じるが、「映像そのもの」に対する感性は、時代を超越したきらめきとなっているのであろう。舞い上がる砂塵、高鳴る音楽、…「動き」と「風景」 は大胆にも旨く融合され、生き生きとした生命感となって作品に溢れている。なるほ ど、それこそ映画の命というものではないか。そう思うと久し振りにいい気分に包まれ「映画」の原点を堪能したように感じた。