「プロスペローの本」~究極の映像世界~

ピーター・グリーナウェイ(1991年/英=日)

ピーター・グリーナウェイは日本では最近に紹介されたイギリスの監督である。 今回はシェイクスピアの遺作「あらし」の映画化だが、内容は政略で島流しにさ れた国王プロスペローが孤島で24冊の本を読み耽り、魔法を身につけ、復讐を 遂げるというものである。映画では、題名の通り、その24冊の本に焦点をあてたものとなっていた。また、造物主プロスペロー自身がこの物語を書いたという 設定にしていたが、このあたりの「物語」の捉え方がグリーナウェイ特有のシニ カルな二重構造に読み取れて面白かった。
しかし、それにしても驚かされたのが映像である。あらゆる芸術に進歩という言葉が無いにしても、「映像もついにここまで来たのか」と思いたくなるほど、 映像は練られ磨かれている。画面の構成は緻密に計算されると共に、数字や二重表現などシンボリックな意味に満ち、幾つもの画像が合成されたかのように隅々の動きにまで工夫が凝らされている。浴室のしずくからあらしに至る「水」のイメージの展開、ハイビジョンという技術を効果的に使用した独創的な本の世界、 海底バレエ・・キャリバンをダンスで表現するなど、グロテスクでエロティックな映像は悪夢を見るように展開されて、この戯曲を詩的想像力の豊かな世界として表現することに成功していた。
ナイマンの音楽と共にグリーナウェイのこの斬新な映像表現は映画の可能性を新 たに切り開いているといって間違いはないと思う。ただ、2時間の間に3本分の映画が凝縮されたような、夥しいまでの映像と情報の洪水には、いささかの疲労感を覚えてしまったということも付け加えておきたい。