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 頑張れ、大学合唱! 〜大学合唱団の現状について

20−05 2020.10.2

現役の大学合唱団のことを語るとき、古いOBに苦境を説明すると「またまた、そんな大げさなことを言って」という言葉をよくいただきました。若いOBにクラブ活動の理想を語ると「いやいや、それは学生にはとても無理ですよ」と言われたものでした。
大学合唱団のことをOBらに語って支援を募る時、その時々の学生の置かれている状況の違いを説明するのに苦労しますが、聞く側のOBとしても、必ずそれぞれの学生時代に置き換える形で私の話を聞くことになるので、なかなか上手く伝わらなかったり、もどかしい思いをするのです。逆に言えばつまり、大学合唱の経験者は自分自身の学生時代をそれくらいビビッドに強く胸に焼き付けているということなのでしょう。しかし、だからこそ、刻一刻と変化していく大学と大学生の状況や苦境についてはOBにはなかなか伝わらないことが多かったように思います。
「とは言っても昔はヨーロッパ演奏旅行には学生主体で行ったもんだ」とか、「あの時は19人で必死で頑張りましから大丈夫ですよ」と言われたとしても、「昔やあの時とはこんなに状況が違うのだ」と言わねばなりませんし、本質は昔か今かとかではなく、時代の流れと学生の現状の中で大学合唱団の活動の弱点を見極め、効果的な支援のポイントを考えねばならないということなのですが、私は日々姿を変えていく大学(グローバル入試、9月入学、ダブルディグリー、クォーター制度が課題である)で大学生を相手に働いているのであり、そうではない人たちがそれを自身の学生時代と比べた時に、ぴんと来なかったり、「それはあるべき姿ではないのでは」という気持ちになってしまうのも分かります。
私は大学合唱団出身の合唱指揮者として、高校合唱(先生の能力にウェイトがあると感じる)よりも、自主性の高い大学合唱の価値を認め支援してきた者ですが、このコロナによる大学合唱団の「新しい危機」については、私の経年の懸念や焦燥というようなレベルをはるかに超えた生命の危機だと感じています。高校のような先生が不在であるからこそ、恐らく大学合唱団は「未曽有の事態」に即し、史上最大の危機に瀕している(その可能性を持っている)と言えるのです。

多数の大学合唱と関わりのある私ですが、この3月中旬から8月くらいまでは全く大学合唱団で練習をしない状態でした。その時も「大変だねえ、早く練習出来るようになったら良いね」と声をかけられましたが、私は4月の段階ですでに絶望的な気持ちになっておりました。なぜならどの合唱団も「新勧が出来てなかった」からです。つまり、それが見つめなければならない現状です。
たいていの大学の秋学期授業はオンラインと対面授業の併用ですが、対面授業はゼミ等に限られますし、授業がそれですから課外活動については相当な制約がかかることは間違いありません。特に勧誘活動はオンラインを中心とすることになると思いますが、練習よりも実はこちらが大きな問題なのです。

1年間新勧活動が出来なかった場合、来年新勧活動が出来る学年は「新3年生のみ(新4年生は就職活動、新2年生は不在)」ということになります。そしてもし、来年新勧活動が出来なかったとしたら(2年間連続で新勧活動が出来なかったら)、大学合唱団は「誰も勧誘出来る立場の人がいない」という状態になり、壊滅的な事態に陥ります。高校のように先生が授業で呼び掛けるというわけにはいきませんので。

もちろん例えば、直接的な勧誘活動をしていないのにリモートによる勧誘だけで大学合唱団に入る人がいます(考えられます)が、それはほぼ中高での合唱経験者です。しかし、例えば7月下旬という時点で、某大学の混声合唱団には7名の経験者が入っていますが、同大学の男声合唱団には1人も部員が入っていないという現象があります。それは現在日本にある高校合唱団のほとんどが女声合唱団か混声合唱団で、いずれにしても男子部員(特に男声合唱経験者)が極少だからです。
総括的に見るとコロナによって大学合唱団の一年生は全体として例年の20%以下になってしまっていると思います。中でも、混声合唱団よりも男声合唱団のほうが危機で、男声合唱団の中でも経験者の入団が少なく、下部組織のないところは圧倒的に危機だ、ということも言えるわけです。
このことは恐らく合唱連盟や大学合唱団全般から発している危機メッセージよりも「遥かに深刻な危機」ということになります。つまり、大学合唱団は、大学生になってから合唱をやってみたいと思う人を「(ある種、言葉巧みに)勧誘」することで成立してきた面がありますので、そこが叶わなかった状態ですので、一番ダメージが大きいと言えるわけです。

ちなみに、大学のどの部活動にとってもコロナは痛手なのですが、例えば野球部に入りたいと思っていた人は新勧時期の勧誘がなくても入るのではないでしょうか?同じようにラグビー部や陸上部にしても、セレクションや推薦入試もありますので、新入部員が皆無になるという現象はありません。オーケストラにしても大学から楽器を始める人は少ないので、勧誘があるかどうかに関係がなく、もともと楽器をやろうと思っていた人たちが一定人数入ってくるとは思います。ところが、そのようなスキルがあらかじめ必要ではないクラブ・サークルについては「オリエンテーションでの勧誘だけが命綱」だったのです。
恐らく、大学から始めることの多いクラブのことを考えると最も致命的な痛手を受けるのは「合唱」だと思います。

勧誘に苦労をした30代以下の若いOBにはよくわかるでしょう。焼け跡のような状態になっても看板一つでテニスサークルは復活するかもしれませんが、看板一つで合唱団に入ってくる大学生が何人いるだろうかということです。「演奏会がなくなる」「練習が出来ない」のはもちろんのこと、「チラシも配れない」「対面での勧誘が出来ない」「大声を出せない」「集まってミーティングすることもできない」「肩を組むことも、飲みながら喧嘩することも、夢を語ることも出来ない」…この状態で何をどう頑張ることが出来るのか…、今の大学合唱の状況はまさしくそれではないかなと思うのです。

大学は秋学期も大半がリモート授業であることが決まっています。(気づかれにくいですが、40人クラス以下の中高の授業が再開したとしても、400人授業や800人授業があり、1万人や2万人の学生が来ることになるキャンパスに活性が戻ることが一番難しいのです。)このままいくと今年の課外活動もかなり限定的となり、来年の新勧時期の直接的な勧誘活動も見通しは暗いです。満足な練習が出来ない、満足な勧誘が出来ない状態が続いてコロナが明けたとしても、その時すでに、少人数の小さい合唱団になっていたら、アカペラサークルと競合しながら崩壊していく団体も多いのではないでしょうか。私はそのような危機感を持っています。

喫緊の課題は下記でしょう。

1、 新入部員を入れること
2、 新入部員を含めて何とか声を磨く練習が出来ること
3、 何とか成功体験を与えること(演奏の機会等に際しては、何らかの形で盛り上げる)

それに向けた小さなトライとして例えば、リモートでの勧誘環境を推進させるためにビデオや上質のカメラ、マイク等の機器を買い揃えることはしてあげられることかもしれません。入った一年生たちに合同で声楽レッスンや基礎練習、講座を持つことは出来るかもしれません。

私はコロナの以前に潰れてしまった大学男声合唱団をたくさん見て来ています。そのことを残念に思い嘆くOBにもたくさん出会ってきましたが、団体が壊滅してしまってからでは援助の費用がいくらあってもほぼ復活させられません。大学合唱団(特に男声合唱団)史上最大のピンチに対して、合唱界一丸となって備えていかねばならないと思っています。

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