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「子供コーラスから学ぶコーラス」
4.少子化を嘆くのではなく、子どもの合唱に全力で取り組むことで合唱の未来を作る

私自身の30年間ほどの合唱指揮活動の中で、表現したい内容とか芸術の深みのよう なものはさておき、合唱に対する考え方、指揮者としての経験、指導ビジョンの ようなものは、30代で七転八倒しながら取り組んだ児童合唱修行で鍛えられたも のだと思っています。
つまらない練習をすると子どもは5分で飽きてしまいます(大人なら愛想笑いもするが)。 理屈っぽく説明することも不可能です。だからと言って無理に冗談や駄洒落を準備するよ うな迎合的なことにも子どもは騙されません。他方で「ああ、難しい言葉使ってしまったな、 今の言葉分かるはずないよな…」と思うことがあっても、こちらが良い音楽に導こうと必死 になって練習している最中だと、子どもは直感的に了解したり、察知してくれます。子ども は肩書きには興味がありませんから、子どもの合唱に取り組むことほど、自分の本気度や中 身が試されることはないのですね。
子どもたちを見てのある種の結論は、「合唱が一人では出来ない」「合唱は言葉を持つ」と いう「合唱の原点」に向き合わねばならないということです。この二つは私たちが人として 生きていくことの根源的な要件や、成長していくプロセスで獲得していくべき要素を含んで います。仲間との関係を取り結ぶのはもちろん、音楽の情緒性だけでなく言葉を表現するプ ロセスを通して知性で感情をコントロールすることを学ぶのも重要です。不登校の子どもが 合唱団だけには来るという状況はよく聞く話であり、一つのセラピーとしての価値も考えた いところですが、これらは何も児童合唱に限ったことではないように思います。
児童合唱の課題となると、必ず少子化に伴う合唱団の規模縮小のことが取り沙汰されます。 それを止めようのない現象だと考えると、逆に私は視点を小学校(中学校)教育に移し、 その中でどのように合唱を機能させられるのか、ということが合唱指導者や合唱に関わる人 たちの共通の課題であると思っています。コンクールを活用しても良いでしょう。しかし、 結果云々という表面的な問題よりも「うた好きな子どもたちを」たくさん作ること、「合唱 の効用と指導法」を学校の先生方に知ってもらうことが重要です。そのためには私たち自身も しっかり学んだり、メソッドを開発したり、場を提供したり、真剣に考えねばなりません。 子ども合唱を特殊なジャンルで括るのではなく、「合唱の原点」と向き合う場として捉え、 私たち全員が全力を挙げて取り組むことで「人を元気付け、励ます歌」の喜びをたくさんの子 どもたちに伝えていかねばと思っています

2017年『ハーモニー 夏号』より
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